大腸・肛門の病気について

 大腸がんが肝臓に転移したら・・?

東京新宿メディカルセンター(旧称・東京厚生年金病院)外科 志田晴彦

1. はじめに

 

 がんは2人に1人はかかると言われる日常的な疾患ですが、ひとくちに「がん」といってもどの臓器にできたか、発見した時点の進行度などによりその治療法も治療成績もたいへん異なります。
 大腸がんはとても多いがんです。わが国の大腸がんに対する治療成績は世界でもトップレベルを誇るもので、がんの中ではとてもよく治るがんの一つです。ですから、「大腸がんが見つかった」といっても悲観することはありません。しかし、血便や腹痛、便秘などの症状があるのにガマンして医療機関への受診が遅れたりすると、発見した時にすでに転移していることがあります。また、手術の時には転移がなくても、手術後しばらくしてから再発という形で転移が見つかることもあります。
 大腸がんが転移する臓器でもっとも多いのは肝臓です。その頻度は手術の時と再発の時を合わせて大腸がん全体の20%から30%におよびます。したがって肝臓の転移をいかに治療するかが大腸がんを治すカギともいえます。
 このトピックスを担当してからすでに10年経ちました。10年の間に肝臓転移に対する治療もますます進歩しています。今回は「大腸がんが肝臓に転移したら・・?」をまとめ直してみました。
 

2. 肝臓転移の診断

 

 大腸がんと診断されたら、かならずどこかに転移がないかどうか以下の検査を行います。

  • 血液中の腫瘍マーカー:CEA、CA19-9 などで、これが高いと転移をおこしている疑いがあります。ただし、正常値でも転移していることもあれば、異常値でも転移がないこともあり、あくまでも一つの目安です。一般の血液検査と一緒にできますので、特に手術後の再発チェックに有用です。
  • 腹部超音波検査:手軽にできる検査です。見えにくい部位などで見逃しが生じることもあります。
  • 腹部CT検査:客観性のあるもっとも信頼できる検査です。肝臓だけでなく他の部位の転移も同時に評価できます。

 上記の検査で転移が疑われるときはMRI検査やPET-CT検査を追加することがあります。
 

3. 肝臓転移の治療法や予後に影響する因子

 

 肝臓転移をどうやって治療するか、また、治りやすいかどうかは以下に挙げるような要素で見通しが変わります。

  • 転移の時期が「同時性」か「異時性」か:「同時性」とは大腸がんが見つかった時にすでに肝臓に転移しているものです。「異時性」とは大腸がんの手術時にはないと考えられていた肝臓転移が数ヶ月から数年後に明らかになったものを指します。言い換えれば「肝臓への再発」ともいえます。
  • 転移の個数:1個か複数個か、多数か。
  • 転移の部位:肝臓の右葉か左葉か両方か。表面か中の方か、血管に近いかどうか。
  • 転移の大きさ:1cm以下のものから10cm以上までさまざまです。
  • 肝臓以外の部位に転移があるかどうか:特に肺、リンパ節、腹膜などです。
  • 患者さんの年齢、体力があるかどうか、肝臓の機能が十分かどうか

 これらはそれぞれの患者さんで違いますので、転移の状況に応じてさまざまな治療作戦が考えられます。
 

4. 肝臓転移の治療

 

 以下の治療法をうまく組み合わせて治療します。

  • 肝切除手術:元の大腸がんと同様に手術で切除することがもっとも有効です。転移が1個のときが1番治りやすいのですが、多数の転移があっても手術は可能です。個数が多い時は2回に分けて手術することもあります。また手術したあとの残った肝臓に再発しても、再び切除することによって道は開けます。数が多い時や、大きいもの、大血管に近いものは手術前に化学療法で小さくしてから手術する作戦もあります。肝臓の手術は安全にできますが、何ヶ所も切除したり、半分以上の切除であったり、何回も手術を繰り返す時などは経験と技術をもった外科医に任せる方がよいでしょう。
  • 化学療法:大きさ、数、肝臓以外の転移の存在などから手術で切除できない方には抗癌剤による「化学療法」が最善です。また、前述のようにすぐには切除ができない時にもお勧めです。この分野の進歩はめざましいものがあり、トピックス内の「大腸癌の化学療法」の項をご覧ください。
  • ラジオ波治療:手術せずに体外から針を刺してがんを焼き溶かすものです。手術により肝臓に直接刺すことも行われます。切除手術に比べれば出血も少なく、身体に対する影響が少ない治療ですが、切除に比べれば再発が多く、切除できない部位の転移や、体力的に手術が危険な方に対して使われることが多い治療法です。
 

 

5. 肝臓転移の手術成績

 

 「5年生存率」がひとつの目安です。1980年代には20-30%程度の5年生存率でしたが、時代とともに成績は向上し、今は50%を超える報告も多く発表されています。
 また、以前は手術が不可能だった数の多い転移にも、化学療法や血管を閉塞させて残る肝臓を大きくする塞栓術などとの組み合わせ、あるいは2段階手術などで切除できることも多くなってきました。写真は多数の転移が化学療法で小さくなり、切除可能となった方の例です。
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6. おわりに

 

 さまざまな治療の組み合わせによって、肝臓の転移に対する治療成績は着実に進歩しています。「大腸がんが肝臓に転移したら・・?」の問いには「あきらめずに治療を受けましょう」とお答えいたします。ぜひ大腸の専門医や肝臓外科専門医に相談してみてください。

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