大腸・肛門の病気について

 感染性腸炎

大阪市立十三市民病院 消化器内科 大川清孝

感染性腸炎とは:

  • 感染性腸炎は病原体が腸管に感染して発症する疾患であり、病原体には細菌、ウイルス、寄生虫などがある。
  • 多くは食品や汚染された水による感染であるが、ペットやヒトからの接触感染もみられる。
  • 一般的には、夏季には細菌性腸炎が、冬から春にかけてはウイルス性腸炎が多く発生する。
  • 本稿では細菌性腸炎とウイルス性腸炎について述べる。
 

患者背景について:

  • 診断には詳しい問診が重要であり、症状とその発現時期、食歴、周囲のヒトの様子、最近の旅行歴(特に発展途上国)、最近の抗菌薬使用歴、基礎疾患の有無などを聞く。
  • 代表的な感染性腸炎の潜伏期は、2日以内と短いものにはブドウ球菌(1-5時間)、腸炎ビブリオ(1日以内)、サルモネラ(8時間-2日)などがあるが、この場合は患者自身が食中毒と気づくことが多い。
  • 比較的潜伏期が長いのは、カンピロバクター(2-10日)、腸管出血性大腸菌(4-8日)、エルシニア(3-7日)、などであり、これらでは患者自身が食中毒と気づかないことが多く、非感染性腸炎との鑑別が問題になることが多い。例えばカンピロバクター腸炎ではこの10日間に生の鶏や生レバーを食べていませんか、などと具体的に聞かないと情報を引き出せないことが多い。
  • チフス・パラチフスは10-14日と潜伏期は長く、海外への旅行歴を聞くことが重要である。
  • 原因食品と感染性腸炎の関係も重要である。魚介類は腸炎ビブリオ、鶏肉はカンピロバクター、鶏卵はサルモネラ、牛肉は腸管出血性大腸菌とサルモネラ、豚肉はエルシニア、牛レバーは腸管出血性大腸菌とカンピロバクター、カキはノロウイルス、などである。
 

症状について:

  • 感染性腸炎は下痢、発熱、腹痛、悪心、嘔吐などの急性胃腸炎症状がみられることが多い。とくに下痢はほぼ必発であり、他の症状は疾患により少し異なる。
  • 血便をきたす感染性腸炎はほとんどが細菌性腸炎であり、内視鏡検査が行われた場合は非感染性腸炎との鑑別が問題になる。血便の頻度が高いのは腸管出血性大腸菌腸炎とカンピロバクター腸炎である。ついでサルモネラ腸炎、チフス・パラチフス、細菌性赤痢、などが高い。
  • 高熱を伴う激しい水様便の場合にはサルモネラ腸炎、カンピロバクター腸炎、ロタウイルス腸炎、などを考える。
  • 腸管出血性大腸菌腸炎では発熱は軽度かみられない。また、腹痛は激しいことがあり、虫垂炎と間違われることがある。
  • エルシニア腸炎は、腹痛と発熱が主な症状で、下痢は軽度かみられない。腹痛は激しいことが多く虫垂炎と間違われることも多い。
  • チフス・パラチフスは発熱が主な症状であり、下痢は必ずしもみられない。
  • ノロウイルス腸炎は、嘔吐と下痢が多く、発熱はないかあっても軽度である。
  • ロタウイルス腸炎は乳幼児に多く、発熱、下痢、嘔吐などがみられる。白色便が特徴である。
 

診断について:

  • 細菌性腸炎の診断は便や腸液を培養して検出する。結果がわかるまで2-3日必要である。 培養の陽性率はあまり高くないため、培養が陰性でも感染性腸炎は否定できない。
  • ウイルス性腸炎の診断は、吐物や便からウイルスに特異的な物質や遺伝子の検出による。
 

治療について:

  • 感染性腸炎は一般的には自然治癒傾向が強いため、治療の原則は対症療法であり、抗菌薬は必要ないことが多い。下痢に伴う脱水には点滴による輸液を行う。
  • 下痢止めや鎮痙薬は腸管内容物の停滞時間を延長し、毒素の吸収を助長する可能性があり原則的には使用しない。整腸剤や乳酸菌製剤は腸内細菌叢を回復させるために投与する。
  • 抗菌薬は赤痢、コレラ、チフス・パラチフスなどの3類感染症では必ず投与する。二次感染予防や排菌期間の短縮のために投与を行う。
  • 腸炎ビブリオ腸炎、ブドウ球菌腸炎、エロモナス腸炎などでは原則抗菌薬は不必要である。
  • カンピロバクター腸炎、サルモネラ腸炎、腸管出血性大腸菌腸炎などでは患者の状態で抗菌薬を投与するかどうかを決める。患者の状態によって適応のある細菌は、サルモネラ、カンピロバクター、腸管出血性大腸菌、エルシニアなどである。患者の状態からみた抗菌薬の適応は?.状が重症(38℃以上の発熱、10回以上の下痢、血便などで判断)あるいは菌血症が疑われるもの、?.1歳未満、高齢者、?.細胞性免疫不全患者、?.人工弁置換、人工関節、人工血管を入れている患者、などである。
 

代表的な感染性腸炎について:

 

1)ノロウイルス腸炎

  • ノロウイルスは冬季を中心に多発する散発性感染性胃腸炎、集団発生胃腸炎および食中毒の主要な原因ウイルスである。感染性胃腸炎で最も多く、冬季に毎年流行する。
  • 2006年度には大流行があり、食中毒の事件数(513件)、患者数(30852人)および1事件あたりの患者数(60人)とも最高を記録した。ほとんどで調理従事者などが汚染源であった。
  • 毎年冬季には流行がみられ、食中毒統計では毎年1万人を超え、最も多い食中毒の原因である。 また、ヒトーヒト感染も多く、多くの場合ウイルスの検査をしないため、数百万人の感染があると推定される。
  • 嘔気・嘔吐、下痢が主症状であるが、腹痛、頭痛、発熱、悪寒、筋痛、咽頭痛、などもみられる。 
  • 特別な治療は必要とせず自然によくなることが多いが、乳幼児や高齢者及び体力の弱っている者では、下痢による脱水や嘔吐物による窒息に注意する必要がある。
  • 潜伏期間は1-2日である。ウイルスは症状が消失した後も約1週間(長い時には約1ヶ月)患者の便中に排泄されるため、二次感染に注意が必要である。
  • 飲食物を介して感染する場合と患者との接触によりヒトーヒト感染する場合がある。カキなどの二枚貝を生や過熱不十分な状態で食べることが、飲食物を介した感染の主な原因である。ヒトーヒト感染では、調理従事者を介した感染や学校・家庭などでの接触感染が多い。
  • 感染者の糞便には、1gあたり数億個のウイルスが含まれる。また、ノロウイルスは感染力が強く、10-100個の極微量のウイルスを摂取することで感染が成立する。
  • ウイルスを不活化するには85℃・1分間以上の加熱及びに次亜塩素酸ナトリウムが有効である。
  • 感染防止策として手洗いの励行とウイルスを含む汚染物の処理が重要である。汚染物(嘔吐物、便)の処理には洗剤ではなく次亜塩素酸ナトリウムを用いることが重要である。
 

2)カンピロバクター腸炎

  • カンピロバクターは夏季を中心に多発する散発性感染性胃腸炎、胃腸炎集団発生および食中毒の主要な原因細菌である。
  • 食中毒統計では毎年2000-3000人発生しており、細菌性腸炎のなかで最も多い。しかし、実際には年間150万人程度の患者がいると推定されている。 軽症も多いこと、実際に菌を検査しないことが多いことなどがその解離の理由である。
  • 下痢、腹痛、発熱が主な症状であるが、嘔気、頭痛などもみられる。かぜやインフルエンザと間違われることもある。
  • 有熱患者の平均体温は38℃代と高いが、発熱は一過性で1-2日で解熱することが多い。
  • 血便も比較的多くみられるが、この場合潰瘍性大腸炎などの非感染性腸炎との鑑別が必要である。
  • 通常は特別な治療は必要なく2-3日で軽快することが多い。乳幼児、高齢者および体力の弱っている者では抗菌薬投与が必要なことがある。
  • 潜伏期は2-10日と比較的長く、患者自身が食中毒と気づかないことが多い。
  • 感染源は鶏肉とその加工品、生レバーなどが多いが、牛や豚もみられる。食肉の過熱不足や調理過程でまな板や手指を介しての二次感染もみられる。
  • 感染防止には鶏肉を生で食べないことが最も重要である。
  • 感染数週間後に手足のしびれや麻痺が起こるギランバレー症候群を発症することがある。
 

3)腸管出血性大腸菌腸炎(O157腸炎)

  • ベロ毒素を出して、出血性大腸炎や溶血性尿毒症症候群(HUS)を起こす大腸菌を腸管出血性大腸菌と呼ぶ。O157は、この腸管出血性大腸菌の代表的な細菌であるがO26、O121、O111などもみられる。
  • ベロ毒素は強力で、とくに腎臓、脳、血管などに障害を起こす。ごくわずかな量で、実験に使われる培養細胞のベロ細胞を殺してしまうことからベロ毒素と名付けられた。
  • ベロ毒素はベロ毒素レセプターを発現している細胞に障害を与える。すなわち大腸細胞では出血性腸炎を、腎臓・尿管の血管内皮細胞ではHUSを、脳の血管内皮細胞では脳症を引き起こす。
  • 1996年5月に岡山県邑久の小学校で学校給食によるO157の集団発生が起こり、468人が発症しHUSで2人の死者が出た。1996年7月に大阪府堺市で学校給食による大規模な集団発生が起こり、5725人が発症、805人が入院、108人がHUSになった。1996年は全国で9451人が発症し死者は12人に及んだ。これらの事件をきっかけに、学校給食の衛生管理が徹底されるようになった。
  • その後集団事例は減り散発事例は続いているが、生レバー禁止で減少効果がみられている。
  • 腸管出血性大腸菌は牛、豚などの大腸に生息している。糞便や糞便で汚染された水、食物を介して、ヒトの口に入り感染を起こす。感染力が強く、感染したヒトからヒトへも感染する。
  • 腸管出血性大腸菌は、わずか数個-数十個という少量の菌が口に入っただけで発症する。そのため非常に感染力が強いと言える。胃酸に強いためほとんどが死滅せずに腸に移動することが理由の1つである。ちなみに他の食中毒菌の場合、100万-1000万単位の病原菌が口に入ると発症する。
  • 感染後4-8日で激しい腹痛、水様性下痢で発症し、翌日には血便を起こすのが典型的症状である。典型例では便成分を認めない血性下痢となる。
  • 年齢別の発症は0-4歳が最も多い、次いで5-9歳が多い。同じ物を食べても免疫能の弱い乳幼児のみが発症することが多いと考えられる。
  • 乳幼児や高齢者では抵抗力が弱いため重症化することがあり、HUSや脳症(けいれん、意識障害)をおこしやすい。特に乳幼児には生の肉・内臓を食べさせないように注意する。
  • 予防のためには、焼肉を食べる場合にはしっかり加熱(中心温度75℃以上で1分間以上)し、焼く箸と食べる箸を使い分けることが重要である。手指の手洗いも重要である。
 

4)サルモネラ腸炎

  • 1990年代後半までは腸炎ビブリオとともに猛威をふるっていたが、国の種々の対策が功を奏し2000年代に入ると減少した。それでも細菌性腸炎の食中毒の中ではカンピロバクター腸炎に次いで多い。
  • 下痢、腹痛、発熱、嘔気が主な症状であり、血便をきたすことがある。
  • 有熱患者の平均体温は38.7℃と高く、自然に解熱することが多いが遷延することもある。
  • 菌が腸粘膜深くまで侵入するため、細菌性腸炎の中では最も重症であり、小児や高齢者では合併症(菌血症、腎不全、髄膜炎、骨髄炎など)のために死亡することがある。
  • 通常は特別な治療は必要ないが、小児や高齢者、免疫不全のある患者、菌血症などの合併症を起こした患者、人工臓器を入れている患者、などでは抗菌薬の投与が必要である。
  • 潜伏期は8-48時間と短く、患者自身が食中毒と気づくことが多い。
  • 感染源は鶏卵と卵調理品が多いが、牛肉や豚肉、ペット(犬、カメ)からの感染もみられる。
© JSCP.2009 All Rights Reserved