大腸・肛門の病気について

大腸癌の化学療法

東京医科歯科大学医学部附属病院 総合外科学講座

植竹 宏之

 

 厚生労働省がインターネット上に公開している「がんの統計」によると、2011年の部位別がん罹患率(どの臓器のがんが多いのか)では大腸癌は2位(女性2位、男性4位)、2014年の部位別がん死亡率(どの臓器のがんで亡くなる方が多いのか)では大腸癌は2位(男性3位、女性1位)となっています。罹患数も年々増えています。
近年の大腸癌治療の進歩は目覚ましく、最も有効な治療である手術の手技は大きく進歩しています。手術のほかに大腸癌の治療成績を改善している治療法として、化学療法や放射線治療があげられます、特に化学療法は,最近20年間に大規模な臨床試験の結果が次々に報告されています。

大腸癌に対する化学療法は以下の(1)および(2)の場合に施行されます。

 

1)手術後の再発を防ぐために実施される化学療法(補助化学療法)

 手術で大腸癌がすべて取り切れた場合でも、目に見えない癌細胞が体の中に残存している場合があります。それが大きくなり、触れるようになったり、痛みがでたり、CTスキャンなどの検査で見えるようになった時に再発の診断となります。再発率を低下させて、生存率を向上させる目的で行われる化学療法を「術後補助化学療法」といいます。
 結腸癌の場合、術後の病理検査においてリンパ節転移が認められた場合(ステージ3)や、リンパ節転移がなくてもがんの悪性度が高いと判断された場合(ハイリスクステージ2)には、手術後に一定期間(標準では6ヶ月間)化学療法薬を投与することにより再発率を低下させることが証明されています. 5-FUとロイコボリン(5-FU/LV療法)という薬剤の点滴投与、またUFT(ユーエフテイー)/LVあるいはカペシタビン、S-1といった経口の抗がん剤による治療法は、補助化学療法として有効です。近年、5-FU/LVあるいはカペシタビンにオキサリプラチンという薬剤を併用した方が(FOLFOX療法あるいはCapeOX療法),更に再発率を低下させることが複数の大規模試験により証明されました。また、2017年には、「オキサリプラチンを含む補助化学療法は、3か月だけ投与しても(全例ではないが)十分な再発予防効果がある」こと示す臨床試験の結果が発表されました。現在、遺伝子検査などで患者さんそれぞれに最適な術後補助化学療法を選択する方法が研究されています。
 直腸癌に対しては、欧米では手術前に化学療法と放射線療法を併用して行うこと(術前化学放射線療法)が一般的です。手術手技が欧米と異なり、手術成績が欧米より良好な本邦においても、術前化学療放射線療法を実施することがあります.また、直腸癌でも結腸癌に準じて術後に5-FU/LV療法や経口のUFT, UFT/LV、あるいはS-1療法が行われることが一般的です。オキサリプラチンの使用は直腸癌に対する術後補助化学療法としては健康保険の適応外です。
 肝臓や肺などに転移した病変を手術で取り切れた場合にも術後補助化学療法が行われることがありますが、どのような化学療法を行うのがよいかといった点について,科学的根拠に乏しいのが実状です。

 

2)大腸癌で手術の対象となり得ない場合や再発に対し実施される化学療法

 発見時時に手術の対象となり得ない場合や,再発した場合(切除可能な場合には手術が考慮されます)では、一般に化学療法が選択されます.通常は、臓器の機能が良好で日中の半分以上は起きていて身の回りのことが自分でできる(全身状態を示すパフォーマンス・ステータスが2より良好)患者さんが化学療法の対象となります。化学療法は、いくつかの薬剤を併用する「多剤併用療法」が基本となります。オキサリプラチン併用療法にはFOLFOX療法、CapeOX療法、(これらは補助化学療法と同じです)、SOX療法などがあります。一方、イリノテカンという薬剤を5-FU/LV療法に併用するFOLFIRI療法なども推奨されています.複数の大規模臨床試験の結果を踏まえ、現在の治療ガイドラインでは、これらの化学療法に分子標的治療薬を併用することがか標準治療となっています。分子標的治療薬には,がん細胞の生存・増殖,転移に必須である腫瘍血管の新生を阻害するベバシズマブ、ラムシルマブ、アフリベルセプト、がん細胞の生存・増殖のシグナルをコントロールする上皮成長因子受容体(EGFR)を標的としたセツキシマブ、パニツムマブ(RAS遺伝子検査が必要です)があります。分子標的治療薬の併用療法による効果には個人差がありますが,CTスキャンなどの画像上、約60%の患者さんにおいて癌が30%以上縮小します。また、抗癌剤を受けなかった場合の生存期間の中央値は6か月ですが、受けた場合のそれは約30か月といわれています。画像上がんが消失する場合や、当初手術が不可能な状態だったにもかかわらず化学療法後に手術が可能となる場合も報告されています。化学療法による副作用としては,骨髄抑制(感染症にかかり易くなったり,貧血が現れたりします),消化器症状(吐き気など),脱毛,末梢神経障害(しびれたり,ものが持ちにくくなったりします。オキサリプラチンの投与で出現しやすいことが知られています)、下痢などが代表的です。分子標的治療薬の出現しやすい副作用としては,血管新生阻害剤では高血圧,鼻出血、血栓を作るなど,セツキシマブ,パニツムマブでは皮膚障害など、特殊な副作用が起こり得ます。ここ数年の研究では、5-FU系薬剤とオキサリプラチンとイリノテカンをすべて併用する強力な化学療法の有効性が示されたり、大腸のどの部位に腫瘍ができたかによって選ぶべき化学療法が異なると報告されたりしています。今後は腫瘍の特性や患者さんの体質、希望によって最適な化学療法を選択する時代になると考えられます。

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