大腸・肛門の病気について

直腸癌に対する放射線療法について

東海大学医学部 消化器外科

貞廣荘太郎

 

直腸癌の再発部位について

直腸は骨に囲まれた骨盤と呼ばれる狭い空間に位置します. 骨盤の中には, 男性では直腸のほかに膀胱, 女性ではさらに子宮や膣が入っています. 直腸癌が手術後に再発する場合, 再発部位として最も多いのは, この骨盤の内部です. その次に多いのが肝臓と肺になります.

 

直腸癌の手術後に起こった骨盤内の再発について

骨盤内に癌が再発すると, 痛みや出血があったり, 排便や排尿がうまくいかなくなったりなど日常生活の上でつらい症状に悩まされます. また骨盤内に再発した癌を完全に治すことは, とても難しいと言わざるを得ない状況です.

 

直腸癌に対する放射線療法について

手術前

直腸癌の治療法として, 日本では手術治療が中心ですが, 欧米および日本以外のアジアの先進諸国では放射線療法あるいは放射線と抗癌剤を一緒に用いる化学放射線療法を手術前に行ってから手術を行う”集学的”治療が標準的な治療法として確立しています. 一般的に, 直腸癌を手術だけで治療した場合, 骨盤内の再発率は12-20%ですが, 手術前に(化学)放射線療法を行うと, 再発率は数%程度に減少します. 手術前の化学放射線療法によって 約20%の患者さんでは直腸の癌が消失し, 約30%の患者さんではステージ(病期)が改善します. これらの約50%の患者さんでは, 肝臓や肺の再発も少なくなり生存率が改善することがわかっています. 残りの約50%の患者さんの肝臓や肺の再発を防ぐ試みが世界中で行われています.

放射線の治療には原則として入院は不要で, 外来に通院しながら治療を受けます.手術前に行う放射線療法には大きく分けて 2つの方法があります. 第一の方法は1回にかける放射線の量を多くして,  短期間のうちにかけ終わってしまう方法, 具体的には1日 5グレイと呼ばれる単位を5日間連続してかけて, 1週間のうちに治療を終える方法です. 第二の方法は, 1回1.8グレイあるいは2グレイを1週間に5回, 4週間あるいは5週間かけて治療する方法です. 第二の方法では治療効果を強めるために, 多くの場合抗癌剤を一緒に使います.

第一の方法は主に北欧やオランダで, 第二の方法は主に米国, フランス, ドイツ, 韓国などで用いられています. 第二の方法は, 放射線の治療に必要な期間が長くなりますが, 癌の大きさが平均で元々の約30%の大きさにまで縮小するため, 永久的な人工肛門を避けられる患者さんが多くなることが報告されています.

放射線を用いた治療では, 放射線をかけ終わったあと数週間から2ヶ月間 身体を休ませてから手術になります. 手術を受けるまでの期間が長くなるため, この間に癌が大きくなるのではないかと心配する患者さんがいらっしゃいますが, 放射線の治療が始まると直腸癌の増殖は止まるため, 手術までの期間が長くなることを心配する必要はありません.

 

(化学)放射線療法の副作用について

放射線, あるいは一緒に抗癌剤を用いて行う化学放射線療法では, 副作用が出現する場合があります. 血液中の白血球などが減ったり, 食欲が落ちたり, 下痢をしやすくなることがあります. また何年か後には, 腸閉塞や放射線がかかった部分の骨折が多くなったという報告や, 手術後に肛門の機能や性的な機能が落ちているという報告があります.

 

最近の話題

前述したように化学放射線療法を行うと約20%の患者さんでは直腸癌が消失します. これらの患者さんに直腸を切除する手術を行わずに経過を見るwatch and wait と呼ばれる方法が欧米で積極的に試みられています. 約 20-30%の患者さんには再発が起こりますが, これらの再発した患者さんの90%には, 再発後に切除が可能であったと報告されています. 逆に言えば, 進行した直腸癌でも, 化学放射線療法によって約20%の患者さんでは癌が消失し, このうちの約70%の患者さんでは手術なしで癌が治るとされています.

 

手術中の放射線治療

癌の周囲への浸潤が強く, 手術で取り切れずに骨盤の中の一部に癌が残ってしまう場合, 直腸癌が骨盤の中に再発した場合などにお腹を開いた状態で放射線照射を行う場合があります.日本では一部の施設で行っています。 この場合は放射線の種類として電子線を用います. 電子線は当たった面から1 – 2cmの深さで効果が最も高くなるため, 体外からではなくお腹を開いた状態で狭い範囲に照射します.

 

手術後

化学放射線療法を行う時期については, 手術前に用いる場合と手術後に用いる場合の比較試験が欧州で行われ, 手術前に用いた方が効果も高く, 副作用も少ないことがわかっています. 従って手術後に放射線を用いるのは, 癌が骨盤内に再発して, 痛みを和らげる目的などに行う緩和医療の場合が多くなります. しかし最近比較的早期の直腸癌に対して, 癌の部分だけを経肛門的に切除して, 手術後に再発予防の目的で化学放射線療法を行うことがあります.

 

日本における今後の標準的な直腸癌治療

日本の多くの医療機関では, 今まで直腸癌に対して手術を行い, 癌の進行程度によって手術後に再発予防目的で抗がん剤治療(補助化学療法)を併用する治療法が行われてきました.厚生労働省から国の方針として, 患者さんの数が多い5つの癌(肺癌, 胃癌, 肝臓癌, 大腸癌, 乳癌)の治療に関して, 手術, 放射線治療, 抗癌剤治療を組み合わせて行うことができる医療施設を “がん診療連携拠点病院”として指定し, 患者さんに質の高い医療を提供することが示されています.

現状ではすべての日本の医療施設で、放射線療法を標準治療として行っているわけではありません。しかし、一部の進行癌には有効性の報告が多くなされています。直腸癌の手術前に放射線治療を用いる治療法は、国際的(欧米、日本以外のアジア)には標準治療とされています。今後直腸癌に対して, 手術前に放射線を用いた治療を行う医療施設は日本でも徐々に増加するものと考えられています。

 

© JSCP.2009 All Rights Reserved