大腸・肛門の病気について

 「大腸がん検診」

大阪中央病院消化器内科 平田一郎

1. 増えつつある大腸癌

 近年、食生活の欧米化に伴い大腸癌にかかる人が増えています。従来、日本では胃癌にかかる率が大腸癌にかかる率よりはるかに高かったのですが、女性ではすでに大腸癌にかかる率が胃癌にかかる率を上回りました。男性においても、あと10年ぐらいすると大腸癌が胃癌を上回ると予想されています。欧米の食事は一般に高脂肪・低繊維食が中心です。脂肪を摂取しすぎると、腸内に脂肪の消化に働く胆汁酸が増え、それが2次胆汁酸(大腸発癌促進物質)に変化します。また、食事中の繊維が少ないと便秘傾向となります。便秘になると、大腸内に2次胆汁酸などの物質が長くとどまり発癌に作用します。食事内容だけが大腸癌増加の原因ではありませんが、重要な因子なので注意が必要です。最近、WHO(世界保健機構)は、運動不足と肥満が最も有力な大腸癌の危険因子であると発表しており、生活習慣病としての大腸癌を予防するには,食生活を含めたライフスタイルの改善が重要であると考えられます。

 

2. 大腸がん検診の実際

 大腸癌による死亡率の増加を抑制するために、厚生労働省は1992年から老人健康保険法に基づいて大腸がん検診の実施に踏み切りました。大腸がん検診は、1998年に老人保険事業の一環からはずれましたが、現在、市町村などの行政が関与する住民検診、企業検診や、人間ドックなどで広く行われています。表は大腸がん集団検診小委員会から厚生省に答申された大腸がん検診方法で、現在この方法に従って大腸がん検診が進められています。表の説明とこの集団検診の方法が良いとされた理由を下記に述べます。
 まず、検診の対象となる年齢は40歳以上です。これは、大腸がん死亡率は男女とも40歳から増加しはじめ50歳から急増してくるからです。
 次に、逐年(年1回,毎年行う)検診が勧められています。これについては、欧米や我が国で検討が行われ、逐年検査を継続したほうが、単年の検査よりも高い大腸がん死亡率減少効果を得られることが証明されています。
 また、本検診におけるスクリーニングとは、症状の無い人達の集団から大腸がんを有する確率の高い人を選び出すことを意味しますが、このスクリーニング検査として便潜血検査が推奨されています。一般に、腸管内に50ml以上の出血があれば血便として肉眼的に認識できますが、ごく少量の出血では肉眼的に認識できません。大腸がんでは、がんの表面が自然に崩れたり,通過する便にこすられて崩れることによって少量の出血をきたすことがあります。この様な肉眼的に認知することが出来ない少量出血(潜出血)を検出するのが便潜血検査で、便潜血検査陽性所見は他の大腸がん症状(便通異常や腹痛など)に比してより早期から出現すると云われています。便潜血検査には化学法と免疫法があります。化学法は古い方法で、獣・魚肉、緑黄色野菜、果実、鉄剤などの医薬品によって影響を受けるため、化学法を行う際は検査実施3日間前ぐらいより食事制限・薬剤制限が必用となります。一方、免疫法は人の血液中の赤血球内にあるヘモグロビンという物質に対してのみ反応するので食事や薬剤の影響を受けません。従って、免疫法では検査前の食事・薬剤制限は不要であり、大腸がんの検出率も化学法より高い成績が示されています。この様な理由から、我が国では免疫法が推奨されています。
 しかしながら、大腸がんにおいてこの様な出血が常時起こっているわけではありません。従って、便潜血検査を施行する場合、1回ではなく複数回行った方が大腸がん検出率は高まりますが、便潜血検査を3日間行った場合と2日間行った場合とでは大腸がんの検出率に差を認めませんでした。この様な理由で、2日法が推奨されています。
 便潜血検査陽性の人には、精密検査が勧められます。精密検査の方法として最も精度が高いのは全大腸内視鏡検査で、厚労省はこの方法を推奨しています。この検査は、お尻から内視鏡の管を入れて大腸全域を観察しポリープやがんを探します。施設によって全大腸内視鏡検査を行っていない所は、注腸検査で精密検査を代行してもよいとされています。注腸検査は、お尻からバリウムという造影剤(液体)と空気を入れてレントゲン撮影する方法で全大腸内視鏡検査よりも精度は少し落ちるとされています。

 

3. 便潜血検査判定(陽性あるいは陰性)の解釈

 便潜血検査が陰性であったからと言って大腸にポリープやがんが全く無いとは言い切ることは出来ません。たとえ進行大腸がんがあってもその約30%は便潜血検査陰性となります(偽陰性)。一方、便潜血検査陽性の結果が出ても必ずしも大腸にポリープやがんが存在するとは限りません。便潜血検査陽性の人の約30〜40%は検査をしても大腸に病変を認めません(偽陽性)。すなわち、大腸がんのスクリーニングに用いられる便潜血検査は簡便で楽な代わりにそれぐらいの精度でしかないと言うことです。

 

4. 新しい大腸がんスクリーニング検査の試み

 便潜血検査よりも精度の高い大腸がんスクリーニング検査を求めて、色々な試みが行われています。欧米では、バーチャル内視鏡検査による大腸がんのスクリーニングが行われています。これは、実際の内視鏡を使用せずにあたかも大腸内視鏡を行った様な画像をコンピュータ解析によって描出する方法です。お尻から空気を入れて非常に解像度の高いCT装置を用いて腹部を撮影します。これは実際の大腸内視鏡検査よりもはるかに楽で短時間で済む検査です。これによって10mmぐらいの大腸ポリープも検出できると言われていますが、その精度の信憑性、放射線の被曝、スクリーニングとしては高価すぎることなどが問題点として挙げられます。
 また、現在の便潜血検査は便中のヒトヘモグロビンをマーカーとして用いていますが、便中のヘモグロビン以外の物質(トランスフェリンなど)やがん関連遺伝子をマーカーとする検査も試みられています。しかし、トランスフェリン測定検査以外は本邦では未だ実用化されていません。

 

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