大腸・肛門の病気について

 過敏性腸症候群

鳥居内科クリニック 鳥居 明

○病気の説明と疫学

 過敏性腸症候群(Irritable bowel syndrome :IBS)は、大腸および小腸に潰瘍や腫瘍などの器質的異常がないにもかかわらず、下痢、便秘などの便通異常と腹痛、腹部膨満感などの腹部症状を呈する症候群です。日本における有病率(人口中、その病気を持っている割合)は10?20%と報告されていますが、近年では社会の複雑化、ストレスの増加に伴い、急増しています。男性より女性に多く、年代別では思春期から壮年期までみられ、20?40歳代に好発します。男性は下痢型が多く、女性は便秘型、あるいは下痢と便秘を繰り返す混合型が多く、発症時には何らかのストレスが関わっていることが多いといわれています。
 過敏性腸症候群の発症あるいは症状増悪の原因としては身体的、精神的ストレスが大きく関与しています。遺伝的因子、生育環境などの背景により素因や性格が形成され、腸管の過敏性が生じます。そこに身体的、精神的ストレスが加わり、腸管の機能異常が発生し、下部消化管を中心とした種々の症状が生じます。すなわち、腸管の痙攣性収縮や弛緩障害をはじめとする運動機能の異常と中枢および末梢の感覚機能の異常が病態を形成すると考えられています。


○診断、必要な検査法

 過敏性腸症候群の診断は、症状を中心とした診断基準によりなされます。国際的な診断基準としては、2006年にできたRome?診断基準が広く用いられています。以下にその内容を示します。
<Rome?診断基準>
 3か月の間に少なくとも3日間、以下の3項目中2項目以上を伴い、再発する腹部不快感または腹痛があるものをいう。
(1)排便により軽快する
(2)排便回数の変化によって発症
(3)便の性状の変化を伴って発症
 さらに便の性状により、?便秘型?下痢型?混合型?分類不能型に分類されます。
 診断基準による診断では、病歴が重要です。著しい体重減少がある場合、あるいは身体所見上異常がある場合は、危険徴候として器質的疾患の除外を慎重に行う必要があります。器質的疾患の除外としては、大腸内視鏡検査、注腸造影X線検査による検索が最も確実といえます。器質的疾患のスクリーニング検査としては便潜血反応検査が有用です。大腸ポリープや大腸癌などの大腸腫瘍性病変、潰瘍性大腸炎、クローン病などの炎症性腸疾患では便潜血反応が陽性を示します。甲状腺機能異常、膵臓疾患なども腹部症状と便通異常をきたすことがあり、血液検査、尿検査も必要な検査といえます。


○治療法

 過敏性腸症候群の治療には5本の柱があります。その第一は病態の説明です。病態を理解することが治療の第一歩となります。2番目にあげられるのが生活指導です。規則正しい生活が排便のリズムを作ります。第3が食事療法です。便秘型の場合には、線維の多い食物の摂取を勧めます。下痢型の場合は、消化のよいもの、油っぽくないものの摂取を勧めていきます。第4が薬物療法です。薬物療法においては、主となる症状に応じて、それぞれに効果が期待できる薬を選択します。どのタイプにも効果が期待できるのが、便の水分量を調節するポリカルボフィルカルシウム(製品名:ポリフル、コロネル)です。また男性の下痢型の場合にはセロトニン受容体拮抗薬である塩酸ラモセトロン(製品名:イリボー)がきわめて有用といえます。5番目が心理療法です。外来での問診も、受容や共感をすることにより簡易精神療法となります。また100点をめざすのではなく75点をめざす75点主義の考え方を指導したり、1日20?30分間歩くことを勧めることは、認知行動療法につながります。

○予後(経過)

 過敏性腸症候群においては、症状を完全に消失させることはむずかしく、症状をコントロールするように心がけることが重要です。また、直接死に至る病気ではありませんが、QOLの低下が著しい病気といえます。ですから、過敏性腸症候群とうまくつきあっていくことが大切です。

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