大腸・肛門の病気について

 大腸癌の治療方法

練馬光が丘病院外科 小西文雄

日本における大腸癌治療の概略

 大腸癌は、悪性度がそれほど高くはないので、早期であればもちろん、進行癌でも根治的な切除の狙えるケースの多い癌です。切除できる確率は全体の9割前後にもなり、明らかな癌の残りがなく切除できれば、治癒率は7-8割に達します。早期癌では内視鏡で治療する場合が多く、また、進行癌であっても腹腔鏡の発達で、開腹しない切除も増えています。
 直腸癌は結腸(直腸を除く大腸)癌と比較して、いくつかの治療上の問題点があります。しかし、直腸癌の治療においても、手術器具や手術法の進歩が著しく、永久的な人工肛門となることは少なくなり、また、大事な神経を傷つけることが減少して、排尿障害、性機能障害を合併する率は低くなっています。

 

早期癌と進行癌

 大腸は結腸と直腸からなっています。右下腹部の虫垂、盲腸から始まって上方へ遡っていく上行結腸、そしてほぼ90度折れてお腹を横断する横行結腸、再び折れ曲がって左腹部を下降する下行結腸、そしてS状結腸、直腸、肛門で構成されています。大腸壁の厚さは約5mmで、内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜の5層から成り立っています。癌の深さによって、粘膜癌、粘膜下層浸潤癌、固有筋層浸潤癌、漿膜浸潤癌といった言い方をします。粘膜下層浸潤癌までを早期癌、固有筋層以下に浸潤している癌を進行癌と呼んでおります。どのような切除方法がふさわしいか、治療法を決める最大の要素は癌浸潤の深さ(深達度)です。これは、結腸癌でも直腸癌でも基本的に変わりません。
 治療法を左右するもうひとつの大事な要素が、周囲の腸間膜内のリンパ節への転移の有無です。リンパ節は癌細胞などを食い止める関所の役目があって、リンパ管の経路に配置されています。血流に乗って転移する方法と合わせて、リンパ節は2大転移ルートの一つです。 したがって、どこのリンパ節まで転移しているかが、治療方針を決めるうえでとても重要になります。遠くまでリンパ節転移が存在するようであれば、外科手術で切除できる範囲を超えた癌の広がりが既に起きている危険性が高くなります。
 病変を切除する方法は、粘膜癌であれば、内視鏡的切除などの簡便な方法をとります。進行癌であれば基本的に開腹手術あるいは腹腔鏡手術となります。

 

内視鏡的切除

 内視鏡切除とは、肛門からスコープ(カメラ)と切除に必要な器具をスコープを通して挿入して腫瘍を切除する方法です。腹部を切開しないので、術後の痛みはほとんどありません。 多くの場合、当日あるいは2-3日、長くても7日以内で退院可能です。切除方法は患部に器具を到達させ、TVモニターに写った患部を見ながら高周波電流で焼き切ります。大腸癌のなかで隆起が小さいタイプや平坦なタイプの病変では根元の粘膜に生理食塩水を注入し、病変を隆起させて焼き切ります(内視鏡的粘膜切除)。また、より大きな病変では、粘膜に生理食塩水を注入し、病変を隆起させたのち、病変周囲の粘膜を電気メスで切開し、粘膜下層を剥離して切除します(内視鏡的粘膜下層剥離術)。 切除した切片は病理組織検査に送って、癌が粘膜内に留まっているか否かを確認します。病理検査の結果が判明するには、1-2週間かかります。
 早期の粘膜癌でも内視鏡で切除できないケースがあります。それは内視鏡の死角ができる部位に癌が存在するときや病変が大きいとき、また粘膜下層に深い浸潤をきたしている場合です。分割して取る方法もありますが、取り残す率が高くなります。

 

専門医を迷わすケース

 粘膜下層まで達している粘膜下層浸潤癌の一部も内視鏡切除の対象になります。しかし医師にとって難しい判断が要ります。というのも統計上、およそ1割の頻度でリンパ節転移があるからです。リンパ節転移は、手術前の画像検査ではわかりにくい点がやっかいなのです。
 そこで内視鏡切除した場合、標本を病理検査に送り、顕微鏡で見て癌が粘膜下層深部まで浸潤していたり、リンパ管に入り込んでいるような場合は、リンパ節転移の危険性が疑われるので、追加腸管切除を受けることをおすすめします。このような場合でも、粘膜下層浸潤癌ではそれより深い浸潤を来している癌と比較してリンパ節転移の頻度がより低いので、治療方法の判断を担当医から患者さんに相談することもあります。

 

腹腔鏡による手術の長所と短所

 内視鏡治療の適応からはずれた早期の大腸癌は、腹腔鏡もしくは開腹による手術が必要です。腹腔鏡は全身麻酔後、お腹に小さな孔を3-5カ所開け、スコープやその他の手術器具を挿入します。剥離受動後、患部腸管を腹腔より引き出して、切除する手術です。長所は、開腹しないので痛みが軽く翌日から歩けるなど、術後の回復が早いことです。痛み止めの薬剤は開腹した場合、2-3日必要ですが、1-2日で済みます。翌日からは食事を摂れるようになります。退院は手術後1週間から10日ぐらいでできます。短所は、手術時間が開腹よりやや長いことです。リンパ節転移の危険性がある場合、手術時にリンパ節も切除しなければなりません。これをリンパ節郭清と言います。リンパ節は大腸に接して連なっているもの、少し離れて連なっているものと大腸からの距離によって4つに区分されております。遠くのリンパ節群を郭清するほど、手術は大きくなります。腹腔鏡による手術では特に外科医の習熟が必要です。進行癌であっても、条件が整っていれば、腹腔鏡手術によって開腹手術と同様のリンパ節郭清が可能です。しかし、より高度の技術が必要とされますので、手馴れた医師のもとで行うことが条件です。
 欧米および日本において、進行大腸癌に対しての腹腔鏡手術の術後生存率は、開腹手術と同様であることが報告されています。

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