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Review Article
Volume 2 Issue 2 Pages 37-46

Fusobacterium nucleatum Infection in Colorectal Cancer: Linking Inflammation,DNA Mismatch Repair and Genetic and Epigenetic Alterations
(大腸および直腸がんにおけるFusobacterium nucleatumの感染:炎症、DNAミスマッチ修復,そして、ジェネティックあるいはエピジェネティックな変異との接点)

和訳版Abstract 近年、大腸癌および腺腫組織にFusobacterium属,特にFusobacterium nucleatum (Fn)が際立って感染していることが報告されるようになった。APCMin/+マウスを使った実験では、Fn 感染が腺腫および癌腫の形成を促進することが示された。大腸癌患者を対象とした研究では、Fn に関連した癌は、右側結腸に多く、高いレベルのCpG アイランド形質(CIMP-H) あるいはマイクロサテライト不安定性 (MSI-H)が認められ、さらに予後不良であることが示された。一方、Fn に感染した癌の中には上記とは異なる性質を示すサブグループが存在し、低いレベルのマイクロサテライト不安定性 (MSI-L) とelevated microsatellite alterations in selected tetra-nucleotide repeats (EMAST)を示す。これらのゲノム変異は、ミスマッチ修復酵素の一つであるMSH3 が、DNA酸化的損傷あるいは炎症に反応して核から細胞質へ移行し核内欠乏状態に陥ることで起こる。Fn 感染とCIMP/MSI-Hとの関連については、感染で誘発される活性酸素種 (ROS) で形成された異常塩基、7,8-dihydro-8-oxo-guanine (8-oxoG)がミスマッチ修復酵素MSH2 とMSH6 の複合体(MutS?)を介して修復されることで説明可能である。すなわち、遺伝子のプロモーター部位ではCpG が多いため、ROS による8-oxoGが密集し、ベース切除修復では修復困難であることが示されている。このような状況下では、MutS?がDNAメチル化酵素(DNMTs)やポリコーム抑制複合体4(PRC4)とともに修復反応を開始する。DNMTは標的遺伝子のCpG アイランドをメチル化し、遺伝子転写を抑えて修復を促進させる。以上のメカニズムを介して、慢性的なFn感染は恒常的なROSの発生を促し、1)MSH2/MSH6に依存したCIMP陽性腺腫あるいは癌腫形成または2)MSH3に依存したMSI-L/EMAST 陽性腫瘍の形成に関与すると考えられる。Fnに感染した癌患者の予後の悪さは、Fnにより癌免疫回避あるいは化学療法耐性が促進されるためと考えられる。