一般社団法人 日本大腸肛門病学会

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大腸の病気

大腸がんが肝臓に転移したら…?

最終更新日: January 28, 2022

岐阜大学大学院医学系研究科 がん先端医療開発学講座 髙橋 孝夫


1.大腸がんの肝転移とは?

がんは進行すると離れた臓器に転移をきたすことが知られています。大腸がんの転移形式として血行性転移、リンパ行性転移、腹膜播種、局所再発などがあります。血行性転移をきたす臓器として肝転移、肺転移などがあり、最も頻度が高い転移が肝臓への転移です。大腸癌研究会のデータによると、大腸癌治癒切除後の肝臓への初発再発率は7.1%とされています。

2.肝転移に関して、どのような検査をおこない、正確な診断をするのでしょうか?

大腸がんの転移・再発チェックには超音波検査やCT検査が一般的です。また、腫瘍マーカー(CEA,CA19-9)を測定し、高値の場合、転移・再発をきたしている可能性があります。肝臓に転移をきたしているかどうかの診断は造影CT検査で診断されることが多く、他の転移巣の確認のためにPET-CTを行うこともあります。また、肝転移に対し手術が可能かどうか、より正確な診断をつけるために、肝臓MRI検査(EOB-MRI検査)を行い、どの領域に、どれくらいの大きさの肝転移巣がいくつあるかの診断をつけることがあります。

3.大腸がんが肝臓に転移した場合の治療は?

大腸がん肝転移の治療には、肝切除、化学療法、熱凝固療法などがあります。他の臓器に転移がなく、肝臓のみの転移で、肝切除可能な場合は肝切除が推奨され、根治術を行います。肝転移の根治術が可能かどうか、肝機能のチェックを行います。
肝転移の切除が困難な場合は、化学療法を行います。最近分子標的薬をはじめ化学療法がとても進歩していますので、化学療法が奏効し肝転移巣が縮小することにより、肝切除が可能になる場合もあります。

1)手術

肝切除可能な場合は肝切除を行います。肝転移の部位や大きさ・個数により手術術式は異なります。また最近では肝切除も腹腔鏡手術が普及してきており、身体に負担の少ない低侵襲な手術も行われています。肝切除後の5年生存率は30%を超える報告が多いようです。肝切除により肝転移巣をすべて取りきれた場合、生存が延長し、治癒する場合もあります。

2)化学療法

肝切除不可能な場合、化学療法を行います。通常、抗癌剤+分子標的薬で行います。化学療法が進歩し、生存期間は30ヵ月を超えるようになってきました。最近では患者さん各々の癌組織で起きている遺伝子変異などで治療法が異なり、効果を示す化学療法剤がわかるようになってきました。現在、RAS遺伝子、BRAF遺伝子、そしてMSIの測定をし、適切な化学療法レジメンを選択します。切除不能な場合、化学療法は日本の「大腸癌治療ガイドライン」では5次治療まで候補があります。化学療法が奏効し、著明に転移巣が縮小し、根治手術ができるようになることを“Conversion Surgery”と呼びます。これにより、更に生存期間が延長したり、場合によっては治癒することもあります。

具体例(図)

大腸がん 多発肝転移

図1

この症例は大腸がん(原発巣)は既に腹腔鏡手術で切除されています。切除不能な多発肝転移に対し、FOLFOX+分子標的薬(詳細は「大腸癌の化学療法」)を5コース施行したところ腫瘍が著明に縮小しました。肝切除可能となり、肝転移の根治手術、いわゆるConversion Surgeryを行いました。切除不能大腸癌の生存期間中央値は約30ヵ月と言われていますが、この患者さんは根治術後10年以上無再発で生存されています。

3)熱凝固療法

熱凝固療法にはマイクロ波凝固療法とラジオ波焼灼療法があります。肝切除と比較しますと出血が少なく、身体に負担が少ない治療法ですが、手術よりは再発が多く、切除しにくい部位の転移や手術に危険が伴う患者さんに使用されることが多い治療方法です。切除する肝転移巣が多数存在する場合、切除できる部位は肝切除を行い、残りの切除しにくい転移巣に対し、熱凝固療法を行うこともあります。

おわりに

大腸癌の肝転移に関する疫学、診断方法、治療方針を述べてきました。肝臓の手術は進歩し、化学療法も改善しています。具体例でお示ししましたように化学療法が奏効し、Conversion Surgeryができることもあります。このような手術、そして化学療法を用いた集学的治療が、外科医(大腸外科医、肝臓外科医)、腫瘍内科医、そして薬剤師、看護師によるチーム医療で積極的に行われています。
StageIVであっても、諦めずに治療を受けられることが重要です。

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