一般社団法人 日本大腸肛門病学会

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肛門の病気

痔核の治療

最終更新日: January 31, 2022

東葛辻仲病院  松尾 恵五


 痔核は内痔核、外痔核、両者が合併した内外痔核、嵌頓痔核などそれぞれの症例で極めて多彩な形態がみられる(写真1)ので、発生部位や成因などから正しい診断とそれに即する適切な治療が必要となります。

写真1

1.痔核の基礎知識

 肛門の3大疾患として痔核(俗称イボ痔)、痔瘻(穴痔)、裂肛(キレ痔)があり、最も頻度が高いのが痔核です。痔核の基本的な構造は正常な肛門内にも存在しており、“何らかの症状を呈して初めて病気の痔核として扱う”と考えるとわかりやすいでしょう。
換言すれば、口の中には正常状態において歯が存在しているがこれが「虫歯」になったときはじめて病気ととらえるのと同じであり、肛門の中を診察して痔核の基本構造が見られても症状がなければ病的痔核ではないため通常は治療対象とはならないのです。

2.痔核の病因

 病的な痔核が発生する原因として、「静脈瘤説(肛門管の痔静脈叢の静脈瘤と考える)」と「肛門クッション滑脱説(肛門管の粘膜下組織が伸びて滑脱するようになったと考える)」という2つの考え方に大別できます。
 痔核は徐々に大きくなり、図1のように怒責時に肛門外に脱出すると考えられています。

図1

3.痔核の分類

1)解剖学的分類

 解剖学的に歯状線の上下で分けて、歯状線の内側のものが内痔核、外側のものが外痔核と分類されています。これは、分類上はすっきりと明確であるようですが、純粋に歯状線の奥側にだけに限局してとどまるような内痔核単独例はほとんどないため、実際上は、あまり意味がないともいえます。歯状線付近の上下にまたがるような痔核の膨隆が一塊となって脱出するものも、一般的には内痔核と呼称されています。
 外痔核においては、肛門管内に存在する「肛門管内の外痔核」と、肛門管下端部の肛門縁に発生する「狭義の外痔核」を明瞭に区別することも大切です。「肛門管内の外痔核」は治療の実際上は内痔核と同様に治療されるからです。

2)脱出度による分類

 脱出度によるGoligher(ゴリガー)の臨床病期分類がよく使われています。
   Ⅰ度:排便時にうっ血し、肛門内で膨隆する。
   Ⅱ度:排便時に内痔核が脱出するが、排便後に自然還納する。
   Ⅲ度:脱出を納めるのに用手的還納を要する。
   Ⅳ度:痔核が大きく外痔核まで一塊化しているため完全には還納できない。
 Goligher(ゴリガー)分類はⅠ度からⅣ度にむけて徐々に程度は悪化し、その程度により治療方法が選択されます。

3)肉眼型分類

 意外なことに、痔核においては癌のように明確に規定された肉眼分類はないのですが、静脈瘤様に血管が拡張した膨隆を主体とするものと、膨隆自体は小さいが、粘膜脱様に粘膜上皮の肛門外への滑脱を主体とするもの、その中間の程度のものなどの種類があります。
また、内痔核が主体のものと外痔核が主体のものとに分ける考え方もあります。

4.痔核の症状

 痔核の症状としては、出血、脱出、腫脹、分泌物、痛みなどがあります。痔核からの出血の特徴は、排便時に「ほとばしる」、「シャーと音をたてて走り出る」、「ポタポタ落ちる」、ような出血で、鮮紅色です。排便終了後には出血は止まります。裂肛や嵌頓痔核のような血流障害、血栓形成がなければ痛みは伴いません。
 血栓性外痔核では、突然の痛みと腫脹で発症し、被覆上皮が破ければ、中から暗赤色の血栓成分から少量ずつの出血がみられます。
 治療対象となる痔核のうち最も多い症状は脱出であるため、その正確な診断が重要となりますが、専門病院では実際に便器で排便するようにいきませて、これをカメラで撮影する「怒責肛門診」が行われています。

5.痔核の治療(図2)

図2

 痔核の治療法は保存的療法、硬化療法、ゴム輪結紮療法、手術療法などに大別できます。
これらのうち、痔核の性状と患者さんの希望に合わせて治療法が選択されます。
「ひどいイボ痔ほど図の下の治療法が選択される」と考えて下さい。

1)保存的療法

 果物・食物繊維の摂取と、便通をよくしていきみを避けることが、症状のある痔核の保存的治療の基本です。
 痛みか出血などの局所の血流障害を伴う痔核には温める温浴療法が良いです。薬物療法は、疼痛、出血の緩和に効果がみられますが、一定期間使用しても痔核自体が消失するわけではないので、その治療にはおのずと限界があり、脱肛症状を消失させる効能はないため、GoligherⅢ、Ⅳ度の脱肛には無効です。

2)硬化療法

 痔核膨隆部局所に薬液を直接注射して効果を得る治療法で、長年、油性のフェノールアーモンドオイル(PAO)のみが唯一の薬液でしたが、2005年3月に水溶性のALTA注が発売され、注目されています。

ⓐ フェノールアーモンドオイル(PAO、パオ)

 5%phenol almond oil(PAOSCLE®)を痔核、および痔核根部血管周囲に注射して炎症を起こし、その二次的な線維化により痔核内の血流を低下させ、粘膜下組織を硬化させる方法です。出血のある痔核の止血を図りたい時には非常に有効で速効性があります。しかし、脱出する痔核(=脱肛)を脱出しないように治す効果は期待できません。

ⓑ ALTA(ジオン注®)(『アルタ』と読みます)

 硫酸アルミニウムカリウム・タンニン酸水溶液(Aluminum Potassium Sulfate・Tannic Acid)を2%に希釈して用います。硫酸アルミニウムカリウムとはミョウバンのことであり、痔核へ速効性の血流遮断作用を有し、止血効果と痔核の縮小効果がみられ、さらに痔核間質組織に無菌性炎症反応を惹起させ線維化を起こすことにより痔核の硬化・退縮および固着させて痔核の脱出を消失させる効果があります。ALTA(アルタ)は脱出する痔核に対して初めて効能・効果を有する注射薬であり、今までは手術以外に治療法のなかったGoligherⅢ、Ⅳ度の脱出する痔核に対して適応となる画期的な治療法といえます。ALTA投与に際しては、図3のような四段階注射法を遵守することが求められています。

図3

 投与日は入院であればベッド上安静とします。翌日からは入浴も可能です。病院により痔疾軟膏剤、軟下剤、鎮痛解熱剤が処方されます。入院期間は1~3泊程度で、日帰り外来手術として行われている施設も多くみられます。外来は約1週間後に通院してもらい、その後も数ヶ月後までは定期的な受診が望まれます。
 副作用としては、全身的には発熱が最も多いものですが重篤なものではありません。局所の合併症は注射部位が深すぎたか注射量が相対的に多すぎるために起こるもので、注射部位の潰瘍やびらん、直腸狭窄、前立腺炎などが報告されています。投与部位が硬結として触れることがあるので、肛門指診の診察で癌と誤認しないよう注意が必要です。薬液が肛門の外側へ流出すれば肛門部の腫脹や疼痛が見られます。
 ほとんどの症例で初回排便時から脱出はみられなくなります。しかし、1年後には2~10%の症例で脱出の再発が生じています。再発しても患者さんがもう一度「ALTA療法を受けたい」と希望することが多いのが本治療法の特徴といえます。
 ALTAの適応は『脱出する内痔核』です。禁忌は、妊婦、授乳婦、腎不全の透析患者です。前立腺癌などで放射線治療歴のある患者さんにも投与できません。
 ALTA療法の長期成績は未だ不明ですが、痔核の治療法を“手術で切除”から“注射で退縮”に変えていく可能性をもった治療法といえます。
さらに、今後は手術との併用により、その適応は拡大していくと考えられます。

Ⓒ ゴム輪結紮療法

 専用の小さな輪ゴムを内痔核膨隆部の基部にかけ、ゴムの収縮力を利用して絞扼し、痔核を壊死・脱落させる治療法で、比較的小さな脱出した内痔核や出血例に用いられます。やわらかで牽引しやすいものや、単結節状に膨隆している内痔核が好適応であり、線維化で硬かったり、痔核の膨隆が小さすぎるものは、すぐ外れてしまい適応とならない可能性があります。

6.手術療法

 手術療法は、結紮切除法とPPH法の2種類が主に行われています。
ここでは汎用されている結紮切除法の説明をいたします。

結紮切除法(図4)

図4

 痔核に対する手術治療法の中でその根治性、汎用性をもって標準術式と考えられているのが「結紮切除術」です。本術式は1937年に英国のMilliganとMorgan が発表したもので、本邦には1960~1970年頃に導入されました。基本概念は「痔核を肛門管の外から内へ縦方向に切離し根部を結紮後に痔核を切除すること」です。(図5)。その後、結紮切除の原型を改良し、重要な肛門組織の損傷を可及的に少なくして治療効果を上げる方法の追求が行われてきました。痔核手術の原則は病的痔核組織の摘除により、肛門を正常に近い状態に復することであり、本邦においても術後出血や疼痛などの合併症を低減しその安全性、確実性を高めるために数々の工夫、改良が重ねられて現在にいたっています。
 結紮切除手術はあらゆるタイプの痔核、あらゆる重症度の痔核に対しても適応となる手術方法です。根治性も高いのですが、術後の疼痛や出血などの合併症が多いところが欠点と言えます。

図5

7.おわりに

 治療後も再発の可能性は残っています。治ったと安心しすぎて無理をしたり、生活習慣が乱れて便通がコントロールできなくなったりすると、再発の可能性は高まります。便秘や下痢をしないような日常生活の習慣や食事に気をつけること、治療時に受けた生活上の注意点などを守りつづけることが何よりも大切なのです。初期なら保存的な治療で治ることもあるので、症状があれば早めに受診することも必要であるといえるでしょう。

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