一般社団法人 日本大腸肛門病学会

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大腸の病気

大腸癌に対するロボット手術

最終更新日: December 21, 2022

公立大学法人横浜市立大学附属病院 石部 敦士


 近年、大腸癌に対するロボット手術が急速に普及してきています。手術で使用されるロボットの種類はいくつかありますが、今回は『ダヴィンチサージカルシステム』について、ロボット手術とはどのようなものか、腹腔鏡下手術との違いや利点・欠点などついてQ&A形式で解説します。


ダヴィンチサージカルシステム(Xi)

Q1.ロボット手術とは?

 ロボット手術とは、執刀医が患者さんの隣に置かれたコンソール(コクピット)に座り、ペイシエントカート(ロボット)を操作し手術を行う低侵襲手術のことです。腹腔鏡下手術と同様におなかに小さな穴をあけて、カメラでおなかの中を観察し、手術を行います。ダヴィンチには4つのアームがあり、カメラと3本の鉗子を用いて手術を行います。

Q2.同じ低侵襲手術の腹腔鏡下手術との違いは?

 ダヴィンチ手術はこれまでの腹腔鏡下手術の弱点を克服し、利点をさらに進させた手術法です。ロボット手術の特徴は以下の3点があります。①3D画像:3D画像による腹腔鏡下手術で、奥行きのある、より立体的な高画質画像で手術を行える。②関節機能が付いた鉗子:従来の腹腔鏡下手術では鉗子が曲がらないため、直線的な動きしかできず可動制限がありましたが、ロボットの鉗子には多数の関節が付き、鉗子の自由度が上がったことにより、体の奥深くにおいても人間の手のような複雑な動きが可能です。③手振れ防止機構:術者の手ぶれを小さくする「モーションスケール機能」が備わっており、より精密な手術が可能となりました。

Q3.ロボット手術の適応は?

 ダヴィンチは欧米では1997年より臨床応用されていましたが、本邦では2009年に薬事承認され、泌尿器科の手術から保険収載となっています。大腸癌においては直腸がんが2018年4月から、結腸がんが2022年4月から保険収載されており、現在はすべての大腸がんにおいてロボット手術が保険診療下に行えるようになりました。

Q4.ロボット手術は腹腔鏡下手術より有用なのか?

 本邦では保険収載したばかりであり、データは少ないですが、海外のデータでは直腸がんにおける従来の腹腔鏡下手術とロボット手術を比較したランダム化比較試験であるROLLAR試験が行われました(1)。その結果、開腹手術への移行率および外科剥離面陽性率(切除面に癌が近いあるいは露出している)、術中/術後合併症の割合、6ヵ月後の性機能や排尿機能に統計学的な差は認められませんでした。サブグループ解析では、男性、肥満など比較的手術が難しい症例では、ロボット手術の開腹移行率が少なくなっており、腹腔鏡下手術が困難症例には良い適応である可能性が考えられました。現在のところ再発率や生存率においてもロボット手術が明らかに勝っているというデータはなく、今後の臨床試験の結果を待つことになります。欠点としては、一般的に腹腔鏡下手術と比較してロボット手術の方が手術時間が長いことと、手術コストが高いことが挙げられます。

Q5.ロボット手術の合併症は?

 ロボット手術の合併症としては通常の腹腔鏡下手術で起こりうる合併症と同様の合併症が起こる可能性があり、その頻度も同様と考えられています。しかし、ダヴィンチ手術では鉗子の触覚がないため、組織を鉗子で持つときに損傷しないよう注意が必要です。そのため、ロボット手術の執刀医および助手は、ダヴィンチ製造販売会社の定めるトレーニングコースを受講し、ロボット支援内視鏡手術の certification(認定) を取得しています。また、本邦ではより安全にロボット手術を導入するため日本内視鏡外科学会がロボット支援内視鏡手術導入に関する指針を出しており、各施設指針にそって手術を行っています。

Q6.ロボット手術で生存率は良くなる?

 現在のところ、ロボット手術が腹腔鏡下手術、開腹手術より明らかに生存率が良くなるというデータはありません。

Q7.ロボット手術にかかる費用は?

 保険収載後は腹腔鏡下手術と同様に保険診療下の費用でロボット手術が受けられます。だだし、保険診療で手術を行うには施設基準を満たす必要があるため、費用については各施設へご相談ください。

参考文献

  1. Jayne D, Pigazzi A, Marshall H, Croft J, Corrigan N, Copeland J, et al. Effect of Robotic-Assisted vs Conventional Laparoscopic Surgery on Risk of Conversion to Open Laparotomy Among Patients Undergoing Resection for Rectal Cancer: The ROLARR Randomized Clinical Trial. Jama. 2017;318(16):1569-80.
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