一般社団法人 日本大腸肛門病学会

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大腸の病気

「大腸がん検診」

最終更新日: February 01, 2022

広島大学大学院医系科学研究科 内視鏡医学 田中 信治


増えつつある大腸がん

 一般に、がんの死亡率は年齢調整するとやや減少傾向にありますが、世界に冠たる長寿国である本邦では、がんの死亡率は決して下がっておりません(図1、2)。本邦のがん死亡率は、男性で、①肺癌、②胃癌、③大腸癌、④肝臓癌、女性では、①大腸癌、②肺癌、③胃癌、④膵癌の順に多く、消化器がん、特に消化管のがんが多数を占めています。男女合わせると、大腸がんはがん全体の中で死亡率2位、罹患率は1位に位置します(図3)。そして、毎年約5万人の患者さんが大腸がんで死亡しています。C型慢性肝炎が薬物療法で治癒する時代になり、また、胃癌の原因であるヘリコバクター感染率がどんどん低下しており、胃癌や肝臓癌の死亡率が低下しつつある中大腸癌は増えています。

図1

図2

図3

大腸がんによる死亡率

 本邦の大腸がん死亡率は、年齢調整しても先進国の中でもトップに位置します(図4)。また、米国はかって大腸癌死亡率の高い大腸がん大国でしたたが、近年大腸がん死亡率は著明に低下しています。ちなみに、現在、人口が本邦の約3倍である米国の大腸癌死亡者数よりも本邦の大腸癌死亡者数のほうが多いことが明らかになり問題となっています(図5)。その原因は何でしょうか? それは、検診受診率の差です。米国は自由診療のため、大腸内視鏡検査の値段が数十万円かかります(州によって異なる)。従って、個人で保険に入っていない場合は、大腸内視鏡検査を受けることは結構大変です。そのような中、米国は50歳を過ぎた国民に大腸内視鏡検査を無償で1回提供しています。便潜血検査による検診とあわせると、大腸がん検診受診率は約70%です。一方、本邦では、便潜血検査による検診を行政が進めていますが、その受診率は約20%とはるかに低いのです(統計によって受診率にはばらつきあり)。さらに、便潜血検査が陽性でも約60%の人しか精査(大腸内視鏡検査)を受けていないという事実があります。このように、米国と本邦の大腸がん死亡率の差は、この検診受診率の差によると考えられています。
 早期大腸癌の多くは内視鏡治療で根治できますし、進行癌でもより早期に診断できれば、化学療法することもなく手術のみで完治可能です。是非、大腸がん検診を積極的に受診して下さい。

図4

図5

大腸がん検診の実状

 大腸がん検診は、現在、市町村などの行政が関与する住民検診、企業の職域検診や、個人の人間ドックなど、色んな形で広く行われています。
 まず、検診の対象となる年齢は40歳以上です。これは、大腸がん死亡率は男女とも40歳から増加しはじめ50歳から急増してくるからです。
 次に、逐年(年1回、毎年行う)検診が勧められています。これについては、欧米や我が国で検討が行われ、逐年検査を継続したほうが、単年の検査よりも高い大腸がん死亡率減少効果を得られることが証明されています。
 一般に、大腸癌の一次検診は便潜血検査で行われます。潜血とは、微量の出血では肉眼的に認識できません。大腸がんでは、がんの表面が自然に崩れたり、通過する便にこすられて崩れることによって少量の出血をきたすことがあります。この様な肉眼的に認知することが出来ない少量出血(潜出血)を検出するのが便潜血検査で、便潜血検査陽性所見は他の大腸がん症状(便通異常や腹痛など)などと比較して、より早期から出現します。本邦では、現在、検査前の食事・薬剤制限は不要な免疫法が推奨されています。また、大腸がんでも、この様な出血が常に起こっているわけではありませんので、便潜血検査を施行する場合、1回ではなく複数回行った方が大腸がん検出率は高まります。そのため、1日法では無く、2日法が推奨されています。
 便潜血検査陽性の人には、精密検査が必要です。精密検査の方法として最も精度が高いのは全大腸内視鏡検査で、厚労省はこの方法を推奨しています。この検査は、肛門から内視鏡を挿入して大腸全体を観察しポリープやがんを探すものです。全大腸内視鏡検査を行っていない施設では、注腸造影検査で精密検査を代行してもよいとされています。注腸造影検査は、肛門からバリウムという造影剤(液体)と空気を入れて大腸をレントゲン撮影する方法で全大腸内視鏡検査よりも精度は少し落ちるとされています。
 他にも、カプセル内視鏡やPET-CTでも大腸がんの検査は可能ですが、大腸がんスクリーニング検査としての保険適用がありませんので、これらの検査を検診で希望される場合は、自費診療で受けて頂くことになります。

便潜血検査判定の解釈について

 便潜血検査が陰性であったからと言って大腸にポリープやがんが全く無いとは言い切ることは出来ません。たとえ進行大腸がんがあっても便潜血検査が陰性になることもありえます(偽陰性)。また、便潜血検査陽性の結果が出ても必ずしも大腸にポリープやがんが存在するとは限りません(偽陽性)。大腸憩室や痔核などの他病変によって出血することも少なくないです。ただし、少なくとも便潜血検査陽性の方は、必ず大腸内視鏡検査を受けるようにして下さい。

大腸がんのリスク

 一般に、高齢であるほどがん罹患のリスクは高くなりますが、50歳以上の方を平均的リスク群と言います。大腸がんの高リスク群には、大腸がんの家族歴(親・兄弟)、大腸のがんやポリープの既往歴、遺伝性大腸癌(家族性大腸腺腫症、リンチ症候群)などがあげられ、高リスク群の方は特に注意が必要です。
 表に大腸癌の危険因子と予防因子を示します。インターネット上に多くの情報が出ていますが、それぞれエビデンスレベルが異なります。この表をみてよく理解していただければ幸いです。

図6

おわりに

 大腸がんは近年増加しつつありますが、恐れることはありません。早期発見すれば内視鏡治療で根治可能です。たとえ、進行した状態で発見されても、より早期であればあるほど根治手術を行える可能性が高いのです。基本的に、早期の大腸がんには臨床症状はありません。信頼できるクリニック・病院で早期発見のために定期的に検診を受けましょう。

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