藤田医科大学医学部 先端光学診療学講座(消化器内科) 大宮 直木
CQ1.血便、便秘、下痢がある時どんな病気が考えられますか?
血便、便秘、下痢を生ずる病気はたくさんあります。
便の色が鮮血の場合は肛門や直腸からの出血、暗赤色の場合は大腸や回腸(小腸の出口に近い方)からの出血、黒色の場合は胃や十二指腸、空腸(小腸の入口に近い方)からの出血が疑われますが、出血量や腸の動きによって色も変わるため一概には言えません。名称的に血便は真っ赤な鮮血便や暗赤色便を指し、下血は黒色便を指します。原因は消化管の潰瘍・炎症、腫瘍、血管性病変・虚血性病変、憩室、痔疾など多岐に亘ります。
便秘は大腸が長かったり、加齢や薬剤、病気(パーキンソン病、甲状腺機能低下症、糖尿病など)、過敏性腸症候群で大腸の動きが低下していたり、排泄機能低下、大腸がんなどで大腸が狭くなっている場合などで生じます。
下痢は感染性腸炎、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患、大腸がん(狭くなるため形のある便が通過せず、水様便のみ通過するため)、薬剤性腸炎、膵がんや慢性膵炎、甲状腺機能亢進症などで生じます。潰瘍性大腸炎では炎症が悪化すると粘液と血が混じる粘血便になります。
過敏性腸症候群は下痢や便秘時に腹痛を伴いますが、排便で楽になるのが特徴です。
CQ2.大腸の検査はどんな時に行うのですか?
便に血が混じった時、便秘や下痢が続く時、原因の分からない腹痛がある時などに血液検査、便検査、CT検査、腹部超音波検査とともに大腸内視鏡検査を行います。また、近年最も多いがんは大腸がんです。日本では40歳以上の方は大腸がん検診として、日にちを変えて2回便を提出する便潜血検査が行われています。どちらか一方または両方の便が潜血陽性になった場合も大腸内視鏡検査が勧められます。
CQ3.大腸の検査にはどんな検査がありますか?
おしりから内視鏡を入れる大腸内視鏡検査が一般的な検査です。便を洗い流すお薬(腸管洗浄剤)を飲んで、大腸をきれいにしてから行います。直接医師が画像を見ながら操作するので最も正確な検査と言われています。検査中に異常が見つかった場合は病変を一部採取して病理検査に出す生検や、ポリープがあった場合は同時にポリープを切除することも可能です。ただ、人によっては検査中に痛みが強く出る場合があり、鎮静剤や鎮痛剤を投与して検査することもあります。また、時に癒着や大腸が長い場合、一番奥の回盲部まで到達できない場合があります。その場合は、長い大腸内視鏡やバルーン内視鏡という特殊な内視鏡を使った検査や大腸カプセル内視鏡検査、大腸CT検査を行います。潰瘍性大腸炎など大腸に炎症が強い場合に通常の大腸内視鏡検査を行うと、炎症が悪化する場合がありますが、そのような場合も大腸カプセル内視鏡は有効です。内視鏡だけでなく腸管洗浄剤の内服自体が炎症を悪化させる場合がありますが、その場合は内服する腸管洗浄剤の量を減らします。
バリウムなどの造影剤と空気をおしりから注入する注腸造影検査も病変の部位や形状を客観的に評価する必要がある場合に行うことがあります。
CQ4.大腸カプセル内視鏡検査はどんな検査ですか?
上述の大腸内視鏡、大腸CT、注腸造影はすべて肛門から器具を入れて行う検査ですが、大腸カプセル内視鏡は口から飲んで行う検査です。従って、苦痛や羞恥心なく検査を受けられ、放射線被曝もありません。ただ、他の検査同様に便を洗い流すお薬(腸管洗浄剤)を飲む必要があります。
大腸カプセル内視鏡は重さ2.9gで、図1のように大きさ31.5mm×11.6mmの細長い円筒形をした形状で、両端に2個カメラがついた内視鏡です。小さく丸みをおびた形状で表面もツルツルしているため腸管を傷つけることはありません。前日に低残渣食を3食召し上がり、前夜に腸管洗浄剤を飲みます。検査当日の便の状態に応じて追加の腸管洗浄剤を飲みながらカプセル内視鏡を飲み込みます。カプセル内視鏡が排泄された時点で検査は終了です。腸管の動きが活発な方は、朝飲むと昼頃には排泄されます。慢性便秘などで腸の動きがゆっくりな方は排泄までに時間がかかる場合があります。検査中は水や透明なジュースを飲むことは可能ですが、食事は控えるようにします。下痢や潰瘍性大腸炎などの方は前日の前処置は省略して、当日腸管洗浄剤を飲むだけでも検査は可能です。
カプセル内視鏡には処置具が付いていないので、大腸CTや注腸造影と同様に生検やポリープ切除はできません。従って、異常が見つかった場合は改めて大腸内視鏡検査を受ける必要があります。
なお、インターネットのホームページ「飲むだけカプセル内視鏡」にカプセル内視鏡を行っている全国の病院リストが掲載されていますのでご参考ください。受診の際は事前に病院に確認をお願いします。
CQ5.大腸カプセル内視鏡検査はどんな時に行うのですか?
以下の場合は健康保険が適用されます。
- 手術などの癒着で、大腸内視鏡が一番奥の盲腸や小腸の出口まで到達できなかった場合。
- 潰瘍性大腸炎などの大腸の炎症で大腸内視鏡が困難な場合。
- 高血圧、慢性閉塞性肺疾患、心不全などで鎮静剤を用いた大腸内視鏡でリスクが想定される場合。
- 慢性便秘症で大腸過長症の場合。
詳細については、主治医の先生とよくご相談ください。
CQ6.大腸カプセル内視鏡検査の偶発症は?
通常の薬より大きいため飲め込めない方が時におられます。日本カプセル内視鏡学会の多施設共同研究では大腸カプセル内視鏡検査を行った1,367人中、14人(1.0%)は飲み込めず、上部消化管内視鏡を使って挿入しています。
また、カプセル内視鏡が狭い部位で留まって排泄されない場合があります。大腸がんなどで大腸が狭くなっている場合、もしくはそれが疑われる場合も他の検査と同様検査を行って良いか慎重に見極める必要があります。日本カプセル内視鏡学会の多施設共同研究では1,006人中17人(1.7%)にこのような滞留が発生し、11人は後日自然に排泄されましたが、4人は内視鏡的に回収され、1人は外科手術で回収されています。たとえ滞留してもカプセル内視鏡が原因で腹痛や腸閉塞が生じることは極めて稀で、大半は症状がありません。
図1
参考文献
- 大宮直木:下部消化管内視鏡スクリーニング検査マニュアル 監修:日本消化器内視鏡学会15-②内視鏡検査が困難な場合の大腸がんスクリーニング 大腸カプセル内視鏡 医学図書出版(発行年月日2018 年5 月10日)pp. 182-187.
- 大宮直木:大腸腫瘍診療の最前線 主題6 大腸カプセル内視鏡検査の最前線「胃と腸」2022年57巻第10号 pp. 1275-79.
- Ohmiya N, Hotta N, Mitsufuji S, et al: Multicenter feasibility study of bowel preparation with castor oil for colon capsule endoscopy. Dig Endosc. 2019;31:164-172.
- Ohmiya N, Oka S, Nakayama Y, et al: Safety and efficacy of the endoscopic delivery of capsule endoscopes in adult and pediatric patients: Multicenter Japanese study (AdvanCE-J study). Dig Endosc. 2022;34:543-552.
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