東京女子医科大学病院 山口 茂樹
直腸がんになっても多くの患者さんに肛門を温存できるようになってきました。手術手技や手術器具の発達とともに、放射線や抗がん剤による補助治療の進歩の貢献が大きいところです。より多くの方に肛門温存手術が行えるようになってきましたが、それでも肛門の近くにがんが存在すると永久人工肛門になることもあります。ここでは、肛門の筋肉の一部を切除して根治性を保ちつつ、肛門を温存する「括約筋間直腸切除」について説明します。
肛門構造とはたらき
肛門は意識をしなくてもガスや便がもれることなく適度な緊張を保っています。これは肛門括約筋という肛門を閉める筋肉のはたらきによります。肛門括約筋は平滑筋からなる内肛門括約筋と、横紋筋からなる外肛門括約筋で構成されます。平滑筋は内臓系の筋肉であり意識がなくても自然に働く筋肉です。日常生活で便やガスもれを抑えているのは内肛門括約筋のはたらきによると考えられています。一方横紋筋は骨格系の筋肉であり、自分の意識ではたらきます。便やガスを自分の意識でおさえることができるのは外肛門括約筋のはたらきによります。
肛門の一部を切除して肛門を温存する括約筋間直腸切除(図参照)
欧米から直腸がんとともに内肛門括約筋を切除して肛門を温存する手術が報告され、日本でもこの手術が徐々に普及しました。この手術にはふたつの問題点がありました。ひとつはがんに近接した肛門が温存されるので再発が増えないか、もうひとつは肛門機能の障害のために日常生活が脅かされないかという点です。海外からはがんの治療成績に問題ないとの報告がある一方、日本のデータでは進行したがんでは再発が増えるデータもみられます。また切除の範囲や年齢、放射線治療によっては肛門機能が低下し便失禁の頻度も上がります。日本の大腸癌治療ガイドラインではこれらの要素と術者の技量からこの手術を行うべきか総合的に判断すべきとされています。
この手術を受けた後の排便の様子は手術前とは変わってしまいます。排便回数の増加や下痢便の際には失禁してしまうなどの症状が残ります。永久人工肛門についてもしっかり理解してから手術方法を決定すべきです。
がんの手術では取り残しのないようしっかり切除して病気を治すことが第一です。括約筋間直腸切除は高度な技術が必要であり、この手術に習熟した施設で受けるべきでしょう。手術の際には主治医の先生とよく相談して手術方法を決定する必要があります。
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