くるめ病院 外科 野明俊裕
骨盤臓器脱(Pelvic Organ Prolapse; POP)とは?
骨盤臓器脱(Pelvic Organ Prolapse; POP)とは、膣から膀胱、子宮、直腸などが脱出してくる状態で、骨盤内臓器を支える組織が弱くなったため起こります。
骨盤臓器脱の症状は?
主な症状は膣からの脱出ですが、それに伴って、尿漏れや頻尿、便漏れや便秘、骨盤痛、会陰部痛などが起こり得ます。
診断
膣からの脱出があれば、婦人科や泌尿器科を受診し、脱出を確認してもらうことで診断は容易に可能です。視診や触診で脱出臓器を確認します。また、直腸からの脱出がある場合には、外科や消化器科、肛門科を受診されるとよいでしょう。全周性円筒状の脱出があれば直腸脱と診断されますが、全周性の痔核や粘膜脱との鑑別が難しい場合もあります。直腸脱の約3割に骨盤臓器脱が合併しますので注意が必要です(図1)
非手術的治療
骨盤底筋体操:脱出の程度が軽く膣の外までは脱出していない方や術後に行います。肛門を引き上げるように力いっぱい締める方法と、80%程度の力で10-20秒間締め続ける方法を併用します(図2)。ピラティスなどのインナーマッスルのトレーニングも有用です。
バイオフィードバック:圧センサーや筋電図を用いて、締めた様子を波形で確認することで適切な力の入れ方を習得する方法です。この結果に基づいて自宅でも体操を継続することが有用です。
ペッサリー(図3):膣の中にリング状のペッサリーを挿入し、子宮円蓋を正常の位置に固定します。適切な大きさでうまく固定できると入っていることを忘れてしまうこともありますが、膣壁に食い込んでしまって潰瘍を形成したり、嵌入してしまう場合があるので定期的な入れ替えが必要です。
外科的治療
膣の外まで脱出している方が手術適応になります。人固有な組織を用いたNTR(Native tissue repair)と経膣的なメッシュを用いたTVM(Tension-free vaginal mesh)、腹腔鏡下に膣壁を挙上・補強するLSC(Laparoscopic sacrocorpopexy)が多く行われています(表1)。
POPの外科的治療法としてTVM(tension-free vaginal mesh)に関しては現在も日本で多く行われていますが、経腟メッシュに関してはFDA(アメリカ食品医薬品局)から注意喚起がなされております。従来法では起こらなかったメッシュ関連合併症が多く報告されたためです。このため2014年にメッシュを供給していたある会社が撤退し、異なるメッシュの供給が始まったということも起こりました。
一方、腹腔鏡下仙骨膣固定術(Laparoscopic sacrocolpopexy; LSC)が普及してきています。経腹的に膣の前壁後壁にメッシュをおき、子宮頚部とメッシュを仙骨に固定する方法です(図4)。TVMと比較するとメッシュ関連合併症は少ないと言われていますが子宮膣上部切断術が必要となります。また、ロボット手術を併用する報告も徐々に増加してきています。
外科領域では腹腔鏡手術が普及しており、盲目的操作を伴うTVMよりも良好な視野で行うことができるLSCが増えてくる可能性は高いと思われます。
直腸脱手術は、大きく分けて経肛門手術(表2)と経腹手術(表3)があります。一般的には、経肛門手術は侵襲は小さいが再発率は高く、経腹手術は侵襲は大きいが再発率は低いと言われています。しかし、2012年より腹腔鏡下直腸固定術が保険収載され、侵襲の少ない手術が可能となりました。直腸の腹腔鏡手術を行っている病院では技術的に可能であり、今後取り入れる病院が増加する可能性が高いと考えられます。
この腹腔鏡下直腸固定術も、様々な方法がありメッシュの使用の有無、メッシュの素材は吸収性か非吸収性か、固定は直腸の前方(図5)か後方(図6)か、など議論となっています。TVMやLSCと同様にメッシュを用いればメッシュ関連合併症は起こりえますので、担当の先生と十分相談の上治療方針を決める必要があります。
直腸脱は圧倒的に女性に多い疾患ですが、男性も少ないですが起こりえます。当院では直腸固定術168例中男性は31例でした。手術時間は平均で女性145分に対し男性160分と長く、腹腔鏡下から開腹移行も女性は137例のうち1例のみですが、男性は31例のうち2例あります。女性の開腹移行は高度肥満によるもので、男性は術中の副損傷によるものでした。女性は、骨盤が広く多少の肥満でも内臓脂肪は少ないため十分視野が確保可能で安全に手術を行うことができます。それに対して男性は骨盤が狭く、標準体型の人でも内臓脂肪が多く、視野確保が難しい人が多いのです。また、再発も男性に多く見られました。
骨盤臓器脱(POP)の治療は、日進月歩です。数年間で技術や道具、メッシュなどの素材が大きく変化する場合もあります。また、逆に様々な合併症などの全例報告が義務付けられ、埋もれていた問題点が浮き彫りになり、廃れていく治療もあるかもしれません。POPは不愉快な症状があるのは事実ですがあくまで良性疾患です。治療、特に手術を受ける場合には担当の先生と十分相談の上治療方針を決めていく必要があります。