一般社団法人 日本大腸肛門病学会

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肛門の病気

骨盤臓器脱up-to-date

最終更新日: December 19, 2023

大腸肛門病センターくるめ病院 野明 俊裕


骨盤臓器脱(Pelvic Organ Prolapse; POP)とは?

 骨盤臓器脱(Pelvic Organ Prolapse; POP)とは、腟から膀胱、子宮、直腸などが脱出してくる状態で、骨盤内臓器を支える組織が弱くなったため起こります。

骨盤臓器脱の症状は?

 主な症状は腟からの脱出ですが、それに伴って、尿漏れや頻尿、便漏れや便秘、骨盤痛、会陰部痛などが起こり得ます。

発生頻度や好発年齢は?

 手術が必要な骨盤臓器脱は年間1000人の女性のうち1.5~1.8人で、ピークは60~69歳と言われています。

どのような人がなりやすいですか?

 骨盤臓器脱のリスクファクターとして高齢、肥満、結合組織疾患、骨盤臓器脱の家族歴、腹圧のかかりやすい状態(慢性の咳や便秘、重いものを持ち上げることが多い生活など)、経腟分娩、子宮の切除手術や骨盤臓器脱の手術歴などが挙げられます。

どのようにして診断しますか?

 腟からの脱出があれば、婦人科や泌尿器科を受診し、脱出を確認してもらうことで容易に診断できます。視診や触診、エコーなどで脱出臓器を確認します。また、直腸からの脱出がある場合には、外科や消化器科、肛門科を受診されるとよいでしょう。全周性円筒状の脱出があれば直腸脱と診断されますが、直腸脱の約3割に骨盤臓器脱が合併しますので注意が必要です(図1)。

図1 直腸脱に合併した小腸瘤、膀胱瘤
図1 直腸脱に合併した小腸瘤、膀胱瘤

非手術的治療にはどのようなものがありますか?

骨盤底筋体操:脱出の程度が軽く腟の外までは脱出していない方や、術後の方に行います。肛門を引き上げるように力いっぱい締める方法と、80%程度の力で10-20秒間締め続ける方法を併用します(図2)。ピラティスなどのインナーマッスルのトレーニングも有用です。

図2 骨盤底筋体操 くるめ病院患者指導用パンフレットより
図2 骨盤底筋体操 くるめ病院患者指導用パンフレットより

バイオフィードバック:圧センサーや筋電図を用いて、締めた様子を波形で確認することで適切な力の入れ方を習得する方法です。この結果に基づいて自宅でも体操を継続することが有用です。

ペッサリー(図3):腟の中にリング状のペッサリーを挿入し、子宮円蓋を正常な位置に固定します。適切な大きさでうまく固定できると入っていることを忘れてしまうこともありますが、腟壁に食い込んでしまって潰瘍を形成したり、嵌入してしまう場合があるので定期的な入れ替えが必要です。

図3 ペッサリー
図3 ペッサリー

外科的治療の適応と方法は?

 腟の外まで脱出している方が手術適応になります。人固有の組織を用いたNTR(Native tissue repair)と経腟的なメッシュを用いたTVM(Tension-free vaginal mesh)、腹腔鏡下に腟壁を挙上・補強するLSC(Laparoscopic sacrocolpopexy)が多く行われています(表1)。

表1 主なPOPに対する手術
NTR 現在残っている靭帯などを用いてPOPを修復する方法
メッシュは使用しない
TVM 経腟的にメッシュを挿入して骨盤の靭帯に固定する方法
メッシュ使用に関する警告が出された
LSC 腹腔鏡下に腟前壁後壁にメッシュを固定して吊り上げる方法
腹腔鏡手術に熟練する必要あり

 骨盤臓器脱の外科的治療法のひとつであるTVM(tension-free vaginal mesh)に関しては現在も日本で多く行われていますが、使用するメッシュに関してはFDA(アメリカ食品医薬品局)から注意喚起がなされました。メッシュ関連の合併症が多く報告されたためです。このため2014年にメッシュを供給していたある会社が撤退し、異なるメッシュの供給が始まったということも起こりました。
 その一方で、腹腔鏡下仙骨腟固定術(Laparoscopic sacrocolpopexy; LSC)が普及してきています。経腹的に腟の前壁後壁にメッシュを置き、子宮頚部とメッシュを仙骨に固定する方法です(図4)。TVMと比較するとメッシュ関連合併症は少ないと言われていますが、子宮腟上部切断術が必要となります。また、ロボット手術を併用する報告も徐々に増加しています。
 外科領域では腹腔鏡手術が普及しており、盲目的操作を伴うTVMよりも良好な視野で行うことができるLSCが増加する可能性は高いと思われます。

図4 LSC
図4 LSC

 直腸脱手術は、大きく分けて経肛門手術(表2)と経腹手術(表3)があります。一般的に、経肛門手術は侵襲は小さいが再発率は高く、経腹手術は侵襲は大きいが再発率は低いと言われています。しかし、2012年より腹腔鏡下直腸固定術が保険収載され、侵襲の少ない手術が可能となりました。
 直腸脱は圧倒的に女性に多い疾患ですが、男性にも起こり得ます。実際に当院で行った手術では、直腸固定術168例中男性は31例でした。男女ごとの特徴として、女性は、骨盤が広く多少の肥満でも内臓脂肪は少ないため十分視野が確保可能で安全に手術を行うことができます。それに対して男性は骨盤が狭く、標準体型の人でも内臓脂肪が多く、視野確保が難しい場合があります。また、再発も男性に多く見られました。

表2 主な直腸脱に対する経肛門手術
デロルメ法 直腸粘膜を剥離切除し、直腸筋層を縫縮する
アルトマイヤー法 直腸の脱出部分を切除し肛門括約筋
(肛門挙筋)を縫縮する
ガント・三輪法 直腸粘膜を貫通結紮して直腸を縫縮する
ティールシュ法 肛門を糸やチューブなどを用いて狭くする
表3 主な直腸脱に対する経腹手術
アプローチ法 開腹手術
腹腔鏡手術
固定方法 メッシュ使用・不使用
メッシュの材質 非吸収性
吸収性
剥離方法 直腸前方・後方
側方靭帯の温存の有無

 骨盤臓器脱(POP)の治療は、日進月歩です。数年間で技術や道具、メッシュなどの素材が大きく変化しています。POPは不愉快な症状があるのは事実ですが、あくまで良性疾患です。治療、特に手術を受ける場合には担当の先生と十分相談の上、治療方針を決めていく必要があります。

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