一般社団法人 日本大腸肛門病学会

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排便障害

出産後の便失禁

最終更新日: December 23, 2024

亀田総合病院 消化器外科 高橋 知子


はじめに

 便失禁とは便のコントロールが上手くいかない状態のことです。自分の意思に反して肛門から便が漏れる状態です。ここでは出産を契機に生じた便失禁について述べていきます。

どんな原因で起こるのか

 出産直後から数週間までは肛門のみならず腟周囲、尿道周囲の触った感じや、便意や尿意がわかりづらいと感じる人が多いと思います。出産は短時間で胎児の大きな頭や体が骨盤内の臓器や周囲筋肉を押し広げて通過していくため、少なからず骨盤内組織に打撲のようなダメージを与えます。 そのため、一時的に便意や尿意、肛門をしめる感覚が鈍くなることがあります。
 帝王切開であった場合でも、途中まで経腟分娩が進行してからの緊急帝王切開であった場合では経腟分娩と同じように骨盤底筋へのダメージが生じる可能性があります。
 また妊娠後期よりリラキシンという筋肉や靭帯を軟化させるホルモンが出産時まで分泌され、その影響で筋肉の筋力低下も生じます。そのため予定帝王切開(手術日を決めて陣痛が始まる前に行う)であった場合でも少なからず一時的な便失禁は起こる可能性があります。
 分娩後すぐに便失禁が生じても、多くの方では出産後1ヶ月を経過する間に肛門周囲の感覚は戻ってきて自然に便失禁が見られなくなります。
しかしながら出産後1ヶ月経過しても肛門をしめることが難しい、便失禁が改善しない場合は次にあげる2つの可能性があります。
1.肛門をしめる筋肉である肛門括約筋の損傷によるもの 第3度、第4度分娩時会陰裂傷
2.肛門を支配する陰部神経のダメージ

です。それぞれについて解説していきます。

1.分娩時肛門括約筋損傷(第3度、第4度分娩時会陰裂傷) 

 経腟分娩時に腟の出口から肛門の方向へ裂けてしまうことを分娩時会陰裂傷と言います。その中でも第3度と第4度分娩時会陰裂傷とはこの肛門括約筋まで切れてしまうことを指します。分娩時肛門括約筋損傷の発生頻度は肛門部の超音波検査で評価した場合では経腟分娩の約30%前後と言われています。
 第3、4度分娩時会陰裂傷の発生時には通常は産婦人科医または消化器外科医により切れた筋肉の縫合がなされます。しかしながら修復が不十分な場合、便失禁が生じることがあります。また肛門括約筋の修復が十分にされていてもダメージが大きかった場合には、分娩後一定期間で便失禁が持続することもあります。肛門括約筋損傷を受けてその後に便失禁症状(ガス失禁も含む)が起こるのは損傷を受けた人の約30%といわれています。

2.肛門を支配する陰部神経のダメージ

 経腟分娩後の1.2% で肛門括約筋に損傷がなくても便失禁が生じると報告があります。肛門を支配する陰部神経のダメージが原因ではないかと考えられています。この神経は骨盤内の仙骨という部分から肛門近くまで伸びている神経であり、分娩時間が長いと神経が引き伸ばされてダメージが生じ、便失禁が起こることがあると言われています。

どのタイミングでどんな病院へ行ったら良いのか?

 分娩後から腟または腟―肛門間の皮膚から便が流出する、便失禁が持続し傷が治りにくい、強い痛みが持続する場合は肛門括約筋損傷修復の状態が悪い場合が考えらます。早めに専門病院を受診される方が良いでしょう。
出産後に便失禁症状が見られても1年後には大部分で便失禁の症状は改善すると言われています。そのため出産から1年経過しても便失禁が持続している場合には、専門病院で肛門括約筋の修復状態の確認(肛門管超音波検査)、肛門の収縮具合のチェック(肛門内圧検査)を受けると良いでしょう。
 そして次の分娩方法を予定帝王切開にする必要があるのかも排便機能専門医と産科医に相談することが大切です。
 肛門括約筋の損傷の有無を正確に診断できるのは、肛門管超音波検査です。この検査ができる病院をまずは探すと良いと思います。

自身でできることはあるのか?

 出産から1ヶ月間の肛門周囲の感覚が戻らない時期には無理に肛門をしめる体操をすることは必要ありません。まずはダメージを受けた肛門周囲や骨盤底に負担をかけないようにして回復してくるのを待ちます。具体的には便を硬くならないようにする(形はあるが軟らかいが最適)、トイレの時間をできるだけ短くする、重いものを持たない、長時間の立ちっぱなしを避けることです。

最後に

 幸せな出産の中での便失禁という状態はとてもショックを受ける出来事かと思います。しかしながら現在は多くの治療法も存在しますのであきらめないで前向きになってください。また、せっかく授かったお子さんの可愛らしい時期ですので、あせらず子育ても楽しみながら治療していきましょう。


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