はっとり大腸肛門クリニック 服部 和伸
<はじめに>
おしりのかゆみで悩んでいる方は多く、人口の約5%に発生し、当クリニックでは全患者さんの1割にもなります。場所が場所だけに患者さんはまず市販薬を使い、良くならずに、痒くてたまらずに来院します。
<原因>
おしりのかゆみはいろいろな原因でおこります。痔核、痔瘻、便の漏れなどの肛門疾患によるもの。下痢や便の付着による皮膚炎。細菌、真菌、ウイルスによる感染や寄生虫などによるもの。軟膏や石鹸のかぶれによるもの。カフェインを含む飲食物によるもの。糖尿病、肝疾患、腎疾患などの全身疾患によるもの。婦人科疾患によるもの。皮膚の腫瘍によるもの。テトラサイクリンなどの内服薬の副作用によるものなどがあります。ところが、多くの場合は原因がはっきりしません。原因がはっきりしません。
その他に最近では「温水便座症候群」が問題となっています。温水便座が普及し、使いすぎによるかゆみが増えています。洗いすぎにより、皮膚の油成分が流され、皮膚が乾燥し、バリア機能が低下し、かゆくなります。また皮膚の常在菌までもが洗い流され、有害な細菌による感染が起こりやすくなります。よくおしりを清潔と言いますが、度が過ぎるとかえってかゆみの原因となるので、注意が必要です。
<症状>
かゆみは入浴後や就寝中に強く、無意識のうちに引っ掻いて、小さな創がたくさんついています。清潔にしようと排便後にはトイレットペーパーでこすって、入浴時にはタオルでゴシゴシ洗って、さらに痒みが強くなり悪循環に陥っています。このような長期間おしりのかゆみに悩んでいる患者さんの肛門の皮膚は白っぽくなり、肥厚し、しわが生じます(図1 1.pptx)。
かゆみの患者さんの中には溶連菌感染による肛囲溶連菌性皮膚炎も報告されています。乳幼児に良く見られますが、成人にも見られるようになりました。これは良く見るかゆみの患者さんとは異なり、肛門周囲の皮膚が赤くなっています(図2 2.pptx)。
疑ったら、溶連菌の迅速検査キットで検査をすれば、すぐに結果が出ます。オムツかぶれやカンジダなどの感染でも赤くなるので、注意が必要です。
<治療>
原因がはっきりしているときは原因となる疾患の治療をします。
原因がはっきりしないときはおしりを洗うときには刺激となる石鹸や薬品などは使わず、排便後もトイレットペーパーでこすったり、入浴時にタオルでこすることはやめるように指導します。かゆみの悪循環を断ち切るためにステロイド外用剤漸減療法を試みます。つまり強めのステロイド軟膏を短期間使います。次に弱めのステロイド軟膏に変更し、リバウンドの防止と副作用の出現を抑えます。夜間のかゆみが強い方には抗アレルギー剤の内服薬を出すこともあります。
また、図2の症例にように、肛囲溶連菌性皮膚炎にはペニシリン系やセフェム系の抗菌薬の内服と軟膏を使用します。
かゆみはいろいろな原因で起こり、その原因に応じて適切な治療が必要です。自己判断せずに早めに専門医の診察を受けましょう。