一般社団法人 日本大腸肛門病学会

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排便障害

たかが便秘に要注意!(たかが便秘されど便秘)

最終更新日: February 15, 2022

横浜市立大学 肝胆膵消化器病学教室 中島 淳


1.なぜ便秘に注意しなければならないのでしょう?

便秘はこれまで「うっとおしい病気ではあるが命に別状はなく別に死ぬ病気ではないのでほっとけばよろしい」といった考えが医師のみならず患者さんの間でおおむね常識的な考え方でした。
ところが近年国内外の大規模疫学研究で便秘患者はそうでないかたよりも死亡率が高いことが続々と明らかにされてきたために、考え方も変化しつつあります。図1の米国の2010年の論文では便秘とそうでない方を15年間追跡すると便秘患者さんは非便秘患者さんよりも20%以上なくなっている方が多いと報告されています。

図1

2.便秘はさまざまの病気の引き金になる

では便秘ではどうして命を落とすのでしょうか?多くはかたい便をトイレで出すときにいきみ(怒責)による血圧の急上昇が引き金になっているのではないかと言われています。若い方は排便時にそれほど血圧が上がりませんが高齢者では動脈硬化があるためにちょっとしたいきみで血圧が上がりやすくなっています。便秘患者では排便時一瞬ですが収縮期血圧が280程度になるともいわれ、血圧上昇による、脳卒中、クモ膜下出血、心筋梗塞や動脈瘤の破裂・乖離などが起きる可能性があります。いくら血圧の薬で安静時の血圧をコントロールしても硬い便を出すための血圧上昇を避けることは困難です。実際トイレで倒れて救急車を呼ばれることは稀ではありません。もう一つ最近の研究では便秘の患者さんは静脈に血液の塊がつまってしまう病気の静脈血栓症が多いこともわかってきました。エコノミー症候群という病気は、静脈血栓症の1つですが、狭い椅子に長く座っていると足の血管のうち静脈という流れが緩やかな管の中で血の塊ができてしまうことが原因です。この血管内の血の塊は肺に移動して肺の血管を詰めてしまう「肺塞栓」や脳の血管を詰めてしまう「脳梗塞」などの重篤な病気の原因になります。

図2

最近慢性腎臓病(CKD: chronic kidney disease)という病気が増えています。慢性腎臓病は病気が進行すると尿が出なくなり腎不全になって透析などを受けなければならないことになる病気ですが最近、便秘患者では腎臓が悪くなるという研究が報告されました。他にも便秘と関係のある病気がある可能性もあります。

図3

3.私は便秘じゃないと思っていても実は便秘であることも。。。

便秘とはどのような状態なのでしょうか。便秘といえばお通じが出ないことだけを想像するかもしれませんが、色々な病態が含まれます。たとえば、毎日便が出ていても「便を出しにくい状態」を「便秘」であると感じていらっしゃる方もいます。また、硬い便は全部いっぺんに出ないので腸の中に便が残りますが、その「残便感」を「便秘」であると感じていらっしゃる方もいます。大事なことは、排便の回数だけで判断できるわけではないということです。

4.便秘の治療の第1目標は?

便秘の治療のはじめの一歩は便秘薬などで便そのものの性状を適切にする事です。目標は、バナナ状の便(ソーセージ状の便)にすることといわれています。できれば黒く熟したバナナが適切です。もちろん高齢者で腹筋が弱く十分お腹に力が入れれない方はもう少し柔らかくてもいいと思います。
国内で便秘薬の治療を受けている方の便の形を調べた報告では便の形は半分が硬便で、2割が水様便泥状便で、バナナ状の便はわずか1~2割しかありませんでした。これでは患者さんも不満でしょうし、何より血圧が上昇してしまいますね(図)(三輪洋人ほか: Therapeutic Research, 2017; 28(11): 1101-1110)。

図4

5.便秘薬の使い方

最近多くの便秘の新薬が登場して治療の選択肢が増えてきました。便秘で困ったらぜひ医療機関で相談するとよいでしょう。
わが国で最も使われる薬は酸化マグネシウムで、次いでセンノシド系の刺激性下剤です。慢性便秘症の診療ガイドラインではこの2つの薬の使い方の注意として以下のように記されています。酸化マグネシウムは血液中のマグネシウム濃度が高くなりすぎないように注意しましょうとされ、医療機関で定期的に血液検査をすることをすすめられています。また刺激性下剤は漫然と毎日使うのではなくどうしても便が出ないで困ったときのみに頓用で使うことが推奨されております(「日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会 編; 慢性便秘症診療ガイドライン 2017)。
最近はがん患者さんや整形外科の患者さんに痛み止め目的で使われる麻薬性の痛み止めに伴う難治性の便秘に対する治療薬も登場しました。

6.便秘の治療の仕上げはトイレに行くこと!?

便秘患者の治療をしていると薬が効いてもトイレに行かないことが多く見受けられます。
最近の国内の便秘患者の研究では便秘患者の実に6割が便意がないことがわかっております。せっかく便秘薬を飲んでもトイレに行かない、行く気が起きなければ排便はできません、治療とセットで決まった時間、特に直食後などに行くようにしましょう(図)。

図5

7.生活習慣の改善はどうすればいいのでしょうか。

まずは便秘薬で直しながら生活習慣を見直すのが良いと思います。水分をとることが重要です。運動や睡眠も重要ですが何よりも3食きちんと食べることが重要です。1日必要な食物繊維は約20グラム、キャベツ1個分といわれています。食物繊維、足りてますか?

8.専門施設を受診したほうが良いのは?

通常の便秘薬で多くの方はある程度治療できますが一部の方ではなかなか治療に難渋します、便秘薬をいくら増やしても全く効かない方や、便秘薬で便は水みたいになるのにいきみが強くなかなか出せない方は専門の検査をしたほうが良いと思います。また便秘と思っていると背後に大腸がんなどの怖い病気が隠れている場合もあります。便秘が続くときには大腸の検査が必要です。体重減少や血便、貧血や、ある一定のがん年齢の方、血縁者に大腸がんがある方は要注意です。

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