一般社団法人 日本大腸肛門病学会

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大腸の病気

過敏性腸症候群について

最終更新日: January 19, 2022

鳥居内科クリニック 鳥居 明


過敏性腸症候群とはどんな病気ですか。

 過敏性腸症候群(Irritable bowel syndrome :IBS)は、大腸および小腸に潰瘍や腫瘍などの器質的異常がないにもかかわらず、下痢あるいは便秘などの便通異常と腹痛、腹部膨満感などのおなかの症状がある病気です。日本における有病率(人口中、その病気を持っている割合)は10~20%と報告されています。社会の複雑化、ストレスの増加に伴い、その症状で悩む人が多く、注目されています。男性より女性に多く、年代別では思春期から壮年期までみられ、20~40歳代に好発します。男性は下痢型が多く、女性は便秘型、あるいは下痢と便秘を繰り返す混合型が多く、発症時には何らかのストレスが関わっていることが多いといわれています。
 過敏性腸症候群の発病あるいは症状が悪くなる原因としては身体的、精神的ストレスが大きく関与しています。生まれつきの性格あるいは育った環境などにより病気のもとが形成され、腸が敏感になります。そこに身体的、精神的ストレスが加わり、腸の機能異常が発生します。腸が痙攣して過剰に収縮したり、ゆるむことができなくなり、運動の異常が生じます。また、脳および腸の感覚が敏感となり、感覚の異常が発生します。運動の異常と感覚の異常から過敏性症候群の症状がでると考えられています。

どのようにして診断をしますか。どのような検査が必要ですか。

 過敏性腸症候群は、慢性的に腹痛と排便の異常が持続することと、器質的疾患が除外されることにより診断されます。国際的な診断基準としては、症状を中心とした2016年にできたRomeⅣ診断基準が広く用いられています。以下にその内容を示します。
<RomeⅣ診断基準>
下記の1ないし2項目以上を伴う繰り返す腹痛が、最近の3カ月において、平均少なくとも週に1回以上認める。
(1)排便と関連する
(2)排便の頻度の変化と関係する
(3)便の形状の変化と関係する
 さらに便の状態により、①便秘型 ②下痢型 ③混合型 ④分類不能型に分類されます。診断では、症状を詳しく聞くことが重要です。著しい体重減少がある場合、あるいはおなかの診察で異常所見がある場合は、注意すべき徴候として大腸がんなどの器質的疾患の除外を慎重に行う必要があります。器質的疾患の除外としては、大腸内視鏡検査が最も有効といえますが、スクリーニング検査としては便潜血反応検査が有用です。大腸ポリープや大腸癌などの大腸腫瘍性病変、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患では出血が持続するため便潜血反応が陽性を示します。甲状腺機能異常、膵臓疾患なども腹部症状と便通異常をきたすことがあり、血液検査や尿検査も必要な検査といえます。

どのようにして治療をしますか。

 過敏性腸症候群の治療には5本の柱があります。1番目は病態を理解することです。なぜ今の症状が出ているかを理解することが治療の第一歩となります。2番目にあげられるのが生活の改善です。規則正しい生活が排便のリズムを作ります。3番目が食事による治療です。便秘型の場合には、線維の多い食物の摂取を勧めます。下痢型の場合は、消化のよいもの、油っぽくないものを勧めます。4番目が薬による治療となります。主となる症状に応じて効果が期待できる薬を選択します。下痢型、便秘型、混合型にも効果が期待できるのが、便の水分量を調節するポリカルボフィルカルシウム(製品名:ポリフル、コロネル)です。また下痢型の場合にはセロトニン受容体拮抗薬である塩酸ラモセトロン(製品名:イリボー)が有用といえます。便秘型の場合はリナクロチド(製品名:リンゼス)が有効です。薬の治療では薬剤の選択と量の調節が重要で、かかりつけの先生とよく相談することをお勧めします。5番目が心理療法です。外来で症状を詳しく話すことが大切です。また100点をめざすのではなく75点をめざす75点主義の考え方や、1日20~30分間外を歩くことも症状の改善につながります。

経過はどのようになりますか。

 過敏性腸症候群の症状を完全に消失させることはむずかしく、症状をコントロールするように心がけることが重要です。また、直接死に至る病気ではありませんがその症状による生活の質(QOL)の低下は著しいといわれており、過敏性腸症候群とうまくつきあっていくことが大切です。過敏性腸症候群の症状でお悩みの方は一度専門の先生に相談してみることをお勧めいたします。

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