一般社団法人 日本大腸肛門病学会

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肛門の病気

ヒト免疫不全ウィルス(HIV)感染と肛門疾患

最終更新日: January 31, 2022

医療法人どうじん会道仁病院 宮崎 道彦


はじめに

 ヒト免疫不全ウィルスHuman Immunodeficiency Virus(以下HIV)が初めて報告され40年が経ちました。本ウィルスに感染すると数年から数十年ほどの無症候性キャリアを経て免疫不全へ進行し後天性免疫不全症候群Acquired Immunodeficiency Syndrome(AIDSエイズ)を発症します。しかし「HIV感染=死」でなく、また「HIV感染=エイズ」でもありません。専門施設での適切な治療を受ければ通常の生活を続けることが可能になっています。最近ではむしろ長生きされる方が多く高齢化が問題になっています。

HIVの感染者

 厚労省エイズ動向委員会報告では2015年までのデータで「1990年代から2000年代においては、新規感染者報告数は増加傾向にあったが、2008年以降は横ばい傾向に転じている。一方、新規エイズ患者報告数は未だ減少傾向にはない。」と発表しています。本邦では感染の経路は海外と違って男性間性交渉(肛門性交)が最多です。男性間性交渉者(men who have sex with men 以下MSM)の中には女性とも性交渉される方がいますので注意が必要です。感染予防はコンドーム装着が推奨されています。先ずは症状がなくても心当たりのある方は自身と大切な家族のために定期的に検査を受けましょう(自治体によっては無料、匿名で検査を受けることができます)。

HIV感染症の治療について

 現在、HIV感染症は様々な新規抗ウィルス剤の開発により慢性疾患となりました。当初は多種、多数の薬を服用しなければなりませんでしたが種類や量が減り、服用の手間も減っています。また、以前は免疫状態の指標であるCD4陽性リンパ球数の数値で抗ウィルス治療の開始を決定していましたが最近では数値に関わらず感染が判明した時点で治療を開始することが強く推奨されています。

HIV感染者の肛門疾患

 肛門性交が行われるため肛門疾患を患うことが少なくなく、肛門の症状を初発として受診し感染が判明する場合があります。一方、HIV感染が判明している患者さんの肛門疾患はこれまで偏見や差別のためにあまり積極的に治療が行われて来ませんでした。MSMかつHIV感染者の肛門疾患に対する自験手術施行例では尖圭コンジローマが最多数で、痔瘻(あな痔)、痔核(いぼ痔)の順でこれに続いていました(図1)。外科的治療を行えるかどうかは全身状態のほかに、CD4陽性リンパ球数が重要で100 cells/㎕以上あれば可能と言われ、免疫状態が安定していれば非HIV感染者と同じように行うことができます。

図1

尖圭コンジローマ

 特に尖圭コンジローマはヒトパピロ-マウィルスHuman Papilloma Virus(以下HPV)の感染で起こる疣贅(ゆうぜい=いぼ)です。自覚症状はかゆみや疣贅の触知です。MSMの場合、肛門の中(直腸側)にも発生していることが多いため直腸診などで肛門内の病変を見逃さないことがポイントです(図2)。肛門内病変発見には下部消化管内視鏡検査(大腸内視鏡検査)も有効です。治療は肛門内病変には焼灼術、肛門外病変には外用薬であるイミキモド塗布(投与期間上限16週)もしくは切除/焼灼術です。ただし、ウィルス性疾患であるため再燃がありえますし、また一部のHPVは発癌と関係が深くMSMのHIV感染者は一般集団と比し肛門扁平上皮癌発生は30~100倍と報告されていますので定期的な術後診察が必要です。

図2

おわりに

 HIV感染者であっても肛門診療をしてもらえる施設を探して受診すればきちんと診断、治療してもらえますのでご安心ください。ただし、事前にホームページや電話などで施設へ確認することをお勧めします。万が一、新規に感染が判明した場合には全国にあるエイズ診療拠点病院へ紹介受診をしましょう。

 


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