大阪急性期・総合医療センター 消化器外科 賀川 義規
はじめに
「がんゲノム医療」とは、「がん」の遺伝子を詳しく調べ、一人一人の遺伝子の変化に応じた治療などを行う医療です。最近の「分子標的薬」と呼ばれる抗がん剤はある特別な遺伝子変異によって効果が違うことが知られています。大腸がんの場合、治療選択に役立つ可能性がある遺伝子変異は約半数の患者さんに見つかります。
大腸がんの遺伝子異常
大腸がんの発生や進行に関連した遺伝子異常としてのRAS、HER2、MSI、BRAFなどを解析して、適切な治療を選択していきます。既に保険適応となり、治療に使用されている薬剤があります。
Dienstmann R, Tabernero J, et al: ASCO Educational Book 2018, Tabernero J: ASCO2018 Educational Sessionより賀川改変
従来の抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常細胞にも作用してしまいますが、分子標的薬では、がん細胞に“より選択的”に作用することが知られています。
こういった適切な治療薬を適切な患者に届けるために、個別化されたがん遺伝子の変異の有無を確認し、その有効性が高い治療が実践できる時代になっています。
がん遺伝子検査
がん患者の腫瘍組織の一部や血液からDNAを抽出して検査し、「がん細胞」に起きている遺伝子の変化を調べ、その特徴を知ることで、患者さん毎に適した治療法を検討する検査です。がんの発生に関わる遺伝子の変異はひとつとは限らず、複数の遺伝子変異が関わっている場合があります。このような遺伝子を「がん関連遺伝子」とよびます。がん遺伝子パネル検査、MSI検査、RAS/BRAF検査、HER2検査は、保険診療で受けることができます。
がん遺伝子検査のタイミング
検査のタイミングは、それぞれの遺伝子検査によって定められています。がん遺伝子パネル検査は、抗がん剤による一次治療開始後から後方治療移行時までの適切な時期に実施することが望ましく、腫瘍量、腫瘍進行速度や治療抵抗性には個体差があることを考慮し適切なタイミングで本検査を実施することが求められています。
がん遺伝子パネル検査
これまで複数の遺伝子変異を検査するには多くの時間が必要でしたが、技術の進歩により「次世代シークエンサー」とよばれる装置が登場したことで、短時間で複数の遺伝子を一度に解析することが可能になり、「がん遺伝子パネル検査」とよばれています。この検査では、100種類以上のがん関連遺伝子の変異を一度に解析できます。それぞれのがんの特徴を詳しく知ることで、ひとりひとりのがん患者に適した治療の提供に繋がります。
がん遺伝子パネル検査の受け方
検査を受けるには
がん遺伝子パネル検査は、厚生労働省の指定する「がんゲノム医療中核病院」、「がんゲノム医療中核拠点病院」、「がんゲノム医療連携病院」で受けることが出来ます。
上記以外の病院でも、厚生労働省の指定する病院へ紹介してもらうことで検査ができます。通院中の診療科で担当医にご相談ください。
提出する検体
内視鏡や手術で採取した腫瘍組織、新たに採取する血液の片方または両方となります。
費用
保険診療で受けることができます。検査費用については、担当医にご相談ください。
検査期間
検体を提出してから解析して結果を返却するまで約1月かかります。検査結果は専門家による会議を経て、担当医に結果が返却されます。担当医から結果の説明を行います。
遺伝的背景と大腸がん
がん遺伝子パネル検査の種類によっては、患者さんのがんに関わる遺伝子変異以外にも、ご家族(血縁者)のがんの発生リスクに関わる可能性のある遺伝子変異が見つかる場合があります。遺伝カウンセラーによるカウンセリングを受けることができますので、担当医に相談してください。
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