一般社団法人 日本大腸肛門病学会

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大腸の病気

大腸癌の治療方法について

最終更新日: February 01, 2022

練馬光が丘病院 外科 消化器センター 小西 文雄


大腸癌治療の概略

大腸癌は、食道癌や胃癌などの他の消化器癌と比較して、悪性度がそれほど高くはないので、早期癌であればもちろん、進行癌でも治癒を目指して切除できる可能性の高い癌です。切除できる確率は全体の9割前後にもなり、明らかな癌の残りがなく切除できれば、治癒率は7-8割に達します。早期癌では大腸内視鏡で治療する場合が多く、また、進行癌であっても腹腔鏡の発達で、多くの症例で開腹をしない腹腔鏡手術で切除できます。
直腸癌は結腸(直腸を除く大腸)癌と比較して、いくつかの治療上の問題点があります。しかし、直腸癌の治療においても、手術器具や手術法の進歩が著しく、永久的な人工肛門となることは少なくなり、また、大事な神経を傷つけることが減少して、排尿障害、性機能障害を合併する率は低くなっています。

大腸癌の発生部位

大腸は結腸と直腸からなっています。右下腹部の虫垂、盲腸から始まって上方へ遡っていく上行結腸、そしてほぼ90度折れてお腹を横断する横行結腸、再び折れ曲がって左腹部を下降する下行結腸、そしてS状結腸、直腸、肛門で構成されています(図-1)。大腸癌は、これらのどの部位にでも発生しますが、多くは、S状結腸-直腸や盲腸-上行結腸などに発生します。

図1

早期癌と進行癌

大腸壁の厚さは約5mmで、内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜の5層から成り立っています。癌がどの層まで及んでいるかによって、癌の深さを判定します。粘膜下層浸潤までを早期癌、固有筋層以深に浸潤している癌を進行癌と呼んでいます(図-2)。「進行癌」は、進行のスピードが早い癌という意味ではありませんので、誤解のないようにしてください。
どのような切除方法がふさわしいか、治療法を決める要素は主に癌浸潤の深さ(深達度)です。これは、結腸癌でも直腸癌でも基本的に変わりません。治療結果を左右するもうひとつの大事な要素が、周囲の腸間膜内のリンパ節への転移の有無です。リンパ節は癌細胞などを食い止める関所の役目があって、リンパ管の経路に配置されています。血流に乗って肝臓や肺に転移する経路と共に、リンパ節転移は重要な転移ルートの一つです。したがって、どこのリンパ節まで転移しているかが、治療結果にかかわる重要な因子になります。遠くまでリンパ節転移が存在するようであれば、外科手術で切除できる範囲を超えた癌の広がりが既に起きている可能性があります。
病変を切除する方法は、粘膜癌(腸管の表面にとどまる癌)であれば、内視鏡的切除などの侵襲の少ない方法をとります。その他の早期癌や進行癌であれば腹腔鏡手術あるいは開腹手術となります。

図2

大腸内視鏡による切除

内視鏡的切除とは、肛門からスコープ(カメラ)を挿入して、スコープの中に切除に必要な器具を通して腫瘍を切除する方法です。腹部を切開しないので、術後の痛みはほとんどありません。多くの場合、当日あるいは2-3日、長くても7日以内で退院可能です。切除方法は患部に器具を到達させ、テレビモニターに写った病変を見ながら高周波電流で焼き切ります。大腸癌のなかで隆起が小さいタイプや平坦なタイプの病変では根元の粘膜に生理食塩水を注入し、病変を隆起させて焼き切ります(内視鏡的粘膜切除, EMR)。また、より大きな病変では、粘膜に生理食塩水を注入し、病変を隆起させたのち、病変周囲の粘膜を電気メスで切開し、粘膜下層を剥離して切除します(内視鏡的粘膜下層剥離術, ESD)。切除された病変は顕微鏡を使った病理組織検査を行い、癌が粘膜内に留まっているか否かなどを確認します。病理検査の結果が判明するには、約1週間かかります。
早期の粘膜癌でも内視鏡で切除できないケースがあります。それは内視鏡の死角ができる部位に癌が存在するときや病変が大きいとき、また粘膜下層に深い浸潤をきたしている場合です。分割して取る方法もありますが、取り残す率が高くなります。

内視鏡による切除か腸管切除手術か?

粘膜癌だけでなく、粘膜下層まで達している粘膜下層浸潤癌の一部も内視鏡切除の対象になります。しかし医師にとって難しい判断が要ります。というのも統計上、およそ1割の頻度でリンパ節転移があるからです。リンパ節転移は、手術前の画像検査ではわかりにくい点がやっかいなのです。
そこで内視鏡切除した場合、標本を病理検査に送り、顕微鏡で見て癌が粘膜下層深部まで浸潤していたり、リンパ管に入り込んでいるような場合、また、癌の分化度が悪い場合は、リンパ節転移の危険性が疑われるので、追加腸管切除を受けることをおすすめしています。このような場合でも、粘膜下層浸潤癌ではそれより深い浸潤を来している癌と比較するとリンパ節転移の頻度が低いので、治療方法について担当医と納得いくまで相談してください。

腹腔鏡による大腸癌手術

内視鏡治療の適応からはずれた早期の大腸癌や進行大腸癌は、腸管の切除手術が必要です。大腸癌の切除は、従来開腹手術(図-3)で施行されていましたが、腹腔鏡手術の発達で、現在では、7-8割の症例で腹腔鏡手術が施行されるようになりました。腹腔鏡手術では、全身麻酔後、お腹に小さな孔を4-5カ所開け、スコープやその他の手術器具を腹腔内に挿入します(図-4)。この際、炭酸ガスを入れて腹腔を膨らませた状態で手術操作をします。腸を剥離授動後、患部腸管をおなかの小さな創から引き出して、切除する手術です。長所は、開腹しないので痛みが軽く翌日から歩けるなど、術後の回復が早いことです。創が小さいので、美容的な利点もあります。痛み止めの薬剤は開腹した場合、2-3日必要ですが、腹腔鏡手術では1-2日ですみます。多くの場合翌日か翌々日から食事が摂れるようになります。退院は手術後1週間くらいでできます。ただし、腹腔鏡手術は手術時間が開腹手術より長いことが指摘されています。

図3図4

リンパ節転移の危険性がある場合、手術時にリンパ節も切除しなければなりません。これを「リンパ節郭清」と言います。リンパ節は腸間膜内に存在しますが、大腸に接しているもの、少し離れて連なっているものなど大腸からの距離によって3つに区分されております。遠くのリンパ節群を郭清するほど、手術は大きくなります。広い範囲のリンパ節郭清を伴うS状結腸癌の切除範囲を図-5に示しました。

図5

腹腔鏡による手術では特に外科医の習熟が必要です。進行癌であっても、条件が整っていれば、腹腔鏡手術によって開腹手術と同様のリンパ節郭清が可能です。しかし、より高度の技術が必要とされますので、手馴れた医師のもとで行うことがすすめられます。
欧米および日本において、進行大腸癌に対しての腹腔鏡手術の術後生存率は、開腹手術と同様であることが多くの報告で示されています。

直腸癌の手術

直腸は骨盤に囲まれた狭い場所にあり、男性では膀胱や前立腺と接し、女性では子宮や膣と接しています。また、排尿や性機能を司っている自律神経とも接しています。さらに、直腸の端には肛門があります。このような理由で、直腸癌の手術は結腸癌と比べて技術的難易度がより高いとされています。直腸癌に対しては、腹腔鏡手術も広く施行されています。
直腸前方切除:直腸癌が肛門から10-15cm離れていれば、比較的容易に直腸を癌とともに切除して腸をつなぎなおす手術が可能です。一方、直腸癌が肛門により近い場合でも、肛門から少し離れていれば、手術は難しくなりますが、同様な手術が可能です。しかしこの場合、腸管のつなぎ目(吻合部)が肛門に近くなればなるほど、つなぎ目が完全に接着せずに一部に孔が開いてしまうこと(縫合不全)による腹膜炎がおきることがあります。これを防止するために一時的な人工肛門を造設して、腸管のつなぎ目(吻合部)に便が通らないようにすることもあります。この場合は、吻合部がしっかりついたことを確認して、初めの手術から2-3ヶ月後に人工肛門を閉鎖して、本来の肛門から排便することができるようになります。
括約筋間直腸切除:肛門にかなり近い直腸癌であっても、状況によっては、肛門付近まで手術操作をして、肛門内で腸をつなぐ(吻合)することも可能です(括約筋間直腸切除)。この手術の術後には、便が漏れやすくなる等の術後の肛門機能の問題もありますが、永久的人工肛門と比較して生活の具合は比較的良好であると考えられています。
直腸切断術:肛門におよんでいる直腸癌に対しては、直腸と肛門を連続させて切除する手術(直腸切断術)が施行され、この際、肛門は切除されて、断端の結腸を左腹部に出して固定する、いわゆる永久的人工肛門となります。

大腸癌に対する抗がん剤治療(化学療法)

ここ5-10年で大腸癌に対する化学療法(抗がん剤治療)は、めざましく発展しました。大腸癌に対する化学療法には、大きく分けて2つあります。一つは、切除手術後に再発を防止するために施行する化学療法で、これを「術後補助化学療法」と呼んでいます。もう一方は、すでに肝臓や肺の転移、また、腹膜の転移があり、高度に進行していて手術的に切除不可能である癌や、手術後の再発があり切除手術が不能である癌(切除不能進行再発癌)に対する化学療法です。

補助化学療法:

補助化学療法の目的は、癌の治癒的な切除手術がなされた症例に対して施行し、再発を抑えて手術後の生存率の向上を図ることです。主として切除手術後の病理検査でリンパ節転移が明らかとなった症例に施行されます。補助化学療法によって無再発生存期間の延長がなされた症例の中には、化学療法によって癌が完治した症例も含まれると推測され、補助化学療法は、治癒切除後の目に見えない微細な残存癌を治癒せしめる効果があるのではないかとも考えられます。一方、術後の補助化学療法には、実際は微少残存癌がなく、化学療法が必要でない症例も含めて施行せざるを得ないという問題点もあります。

切除不能進行再発癌に対する化学療法:

切除不能進行再発癌を抗がん剤で治癒させることはきわめて困難です。しかし、大腸癌治療の領域では、癌化学療法のめざましい進歩により、化学療法を施行した場合の切除不能進行再発大腸癌の生存期間中央値は、30か月を超える良好な成績を示しています。さらに、最近の癌治療の進歩の一つとして、適応となる症例は少数ですが、免疫チェックポイント阻害剤による新たな治療が脚光をあびています。

以上、大腸癌の治療について、最近の進歩も含めて、主な点を説明しました。大腸癌の治療を理解されるうえに少しでも役立てば幸いです。

 


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