一般社団法人 日本大腸肛門病学会

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肛門の病気

肛門部で見られる性感染症(梅毒、尖圭コンジローマ、肛門部ヘルペス)

最終更新日: December 19, 2023

健生会奈良大腸肛門病センター 吉川 周作


性感染症(STD:sexually transmitted disease)とは、性行為などの接触によって引き起こされる感染症で、以下のものがあります。
細菌性:梅毒、淋菌感染症、軟性下疳、鼠径リンパ肉芽腫、クラミジア、マイコプラズマ
ウィルス性:疣贅(尖圭コンジローマ)、性器ヘルペス、伝染性軟属腫、HIV感染症
寄生虫:トリコモナス、疥癬(ダニ)、ケジラミ症などがありますが、通常肛門部によくみられるのは、梅毒性、尖圭コンジローマ、性器ヘルペスです。観察範囲を直腸、膣、尿道などを含めた外性器に広げますと、淋菌、クラミジア、トリコモナス、疥癬、ケジラミ症などが含まれてきます。
多くは五類感染症で届け出の対象疾患となっています。
ここでは、肛門部によくみられる性感染症として、梅毒、尖形コンジローマ(HPV感染)肛門部ヘルペスについて解説を行いたいと思います。

梅毒性

近年患者数が急増しており(図1、図2)性的な接触にて性器、口腔、肛門に伝播(うつること)します。皮膚接触や胎盤を介した感染も起こり得ます。梅毒は次の3段階の病態で進行します。

図1
図1 梅毒(全数報告、年次推移)近年男女ともに梅毒発症の報告が増加している。

図2図2 梅毒(全数報告、年齢別階級別・2020年)女性若年発症と若年から中高年までの幅広い男性の発症が目立つ
(データ参照:国立感染症研究所感染症疫学センター 感染症発生動向調査事業年報)性の健康医学財団の報告より

第1期:3~4週間の潜伏期に続いて感染部分に下疸が発生します(図3)。
下疸とは男性では陰茎、肛門、直腸、女性では外陰部、子宮頸部、会陰(膣と肛門の間)に見られ、初期は軽い発赤をともなった小豆大から人差し指大の大きさの硬めのしこりが見られその後、中心部分の皮膚が潰瘍(図3)になり、こすると無数のスピロヘーター(梅毒の原因菌)をふくむ透明の液がでます。あまり痛みは伴いませんがこの時期は人へ感染させます。
痛みのないリンパ節の腫れも見られます。
通常3~12週間で治癒し患者は完全に健康にみえます。

図3図320才台 HIV感染に合併した早期梅毒の肛門病変
麻酔状態での観察:軟性下疸と浅い潰瘍

第2期:スピロヘーターは血液を介して拡散して広範囲(胴体を中心に、顔面や手足に目立たない薄い発赤(バラ疹)や手のひらや足の裏)に赤褐色の発赤、隆起が見られます。全身的には、発熱、食欲不振。悪心、疲労感、頭痛、難聴などの全身の症状が出ることもあります。ただ、この時期に見られた皮膚の変化も無治療で数日から数週間で消失する場合もあり、最終的には皮膚粘膜の病変は消失します。
肛門では扁平コンジローマと呼ばれる平らな隆起でしこりの様なものがみられます。これは極めて感染力が強いのでこの時期に接触すると伝播しやすいので注意が必要です。

第3期:未治療の3分の1が発症し、初回の感染から3~10年の経過をえて発症します。
・良性第3期梅毒
・心血管梅毒
・神経梅毒    といった性器周囲から全身の疾患に移行する時期のことです。
この様な経過で肛門科の診察を受けられる多くは、1期の軟性下疸および2期の扁平コンジローマとして発見されます。
診断は血液検査で診断が確定します。
治療は内服や注射でペニシリン系の薬剤の投与を行います。

尖圭コンジローマ

ヒトパピローマウィルス(HPV)によって感染します。
肛門周囲から膣、外陰唇、陰茎にみられ、時に肛門の中の皮膚にもみられます。
軟らかくて、湿り気のある微小な疣贅(イボ)で、ピンク色または灰色で散在性にみられるものから集簇して大きな塊になることもあり、症状も多彩です。
全く無症状でイボだけを訴えて来られる方から、大きな腫瘤を形成して、かゆみ、灼熱感、不快感を訴える方まであります(図4)。
基本的には皮膚と皮膚の接触で病変が伝播しますが、まれに乳幼児、性交渉のない成人や高齢者にも発症します(図5)。入浴やトイレ、産道感染の可能性も指摘されています。
当院でも、洗浄機付きの便座での親子間の感染が疑われる症例や、十分な消毒をしないで使用した脱毛器の使い回しでの感染など経験しています(図6)。
潜伏期間は3週間から8ヶ月で徐々にイボが増えて、隣接するものが融合して増大化しつつ病変が拡がってゆきます。
診断はその特徴的なイボが観察できれば、ほぼ診断可能ですが、確定するには組織をとって病理の検索を行います。
治療方法は疣贅(イボ)の大きさと数で決まります。

  1. 軟膏治療(イミキモド5%クリーム)
  2. 凍結療法
  3. 治療薬(三塩化酢酸、二塩化酢酸溶液)の塗布
  4. 外科療法(炭酸ガス、ホルミウムレーザーの蒸散法、電気メス、外科切除)
  5. インターフェロン局所注射(再発、難治例)

「性感染症診断治療ガイドライン」

図4 尖圭コンジローマー図4 尖圭コンジローマー疣贅が集簇し結節状になっている、陰嚢付近や陰茎にも感染が及ぶこともあるので注意が必要

図5図55歳の幼児にみられた尖形コンジローマ

図6図6尖圭コンジローマー
30才代女性:脱毛エステにて脱毛後に器具での接触にて感染(軽症)→(病変)

性器ヘルペス(図7)

単純ヘルペスウィルスによる局所の感染が原因です。単純ヘルペスウィルスは性器以外でも口唇、顔面などにも見られ、同様の病態を呈します。
最初は小さな皮膚の潰瘍や水疱がみられますが、次第に消退して軽度の発赤になります。ただ局所の痒みや痛みを伴ってその後、中枢方向の神経に伝播します。
性器ヘルペスの場合には腰仙髄神経節などに潜伏感染します。疲れたり性行為などの刺激で再活性化して皮膚や粘膜で再び病変を形成します。性器ヘルペスの患者の6~7割は再発例であるため高齢者でも発症者が見られる疾患で予防と、適切な治療が重要となります。
診断は特徴的な皮膚の発赤や、水疱、痛みを伴うことも多く診断は容易ですが、再発例では皮膚病変は少なく血液検査も合わせで診断がされることもあります。
治療は抗ウィルス薬の内服、外用、点滴療法があります。早期に十分な治療を行うことで潜伏するウィルスの量を減らし再発を予防してゆきます。

図7図7単純ヘルペス感染:40才代女性
肛門周囲の痛みで受診、大陰唇周囲から肛門周囲には発赤と湿潤傾向
さらに左右の臀部にかけて小水疱も見られる

おわりに

性感染症の多くは性的接触によって伝播しますが、感染部位が恥部なため診察が遅くなったり、おっくうになる、しかもどこに相談したら良いのかわからない疾患です。疾患の本質上、泌尿器科、婦人科、肛門科、皮膚科にまたがる症状で何科に受診するか悩まれる方も多いようです。気になる様でしたらまずは上記のいずれかを受診する事から始めてください。パートナーが特定できる様でしたら一緒に診察を受けられ、パートナーと御一緒に治療を行うことをお奨めします。

参考文献及び参考にしたHP

肛門病変の診断と治療:水島大輔 診断と治療のTopics HIV感染症とAIDSの治療9巻1号27~32p
性感染症 診断・治療ガイドライン、日本性感染症学会:診断と治療社、2020
「お尻の病気」アトラス:稲次直樹 医学書院、157~163p、2019
性の健康医学財団
STD研究所
厚生労働省 性感染症報告書
国立感染症研究所

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