一般社団法人 日本大腸肛門病学会

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排便障害

便失禁

最終更新日: January 20, 2022

関西医科大学総合医療センター外科 吉岡 和彦


はじめに

 便失禁とは普通便のコントロールがうまくいかない状態のことです。とくに自分で便を出さずに留めておこうとしても、便が肛門から漏れ出る状態をあらわしています。患者さんは気持ちが沈み、生活の質が低下することがあります。
 日常診療で、患者さんからよく受ける質問の内容を例にとって説明します。

Q)なぜ便失禁が起こるのでしょうか?

いろいろな原因があります。

  1. 加齢によるもの:男性も女性も年をとるにつれて、肛門周囲の括約筋が衰えて、肛門のしまりが緩くなることが、知られています。それにより便失禁の症状がでることがあります。
  2. 肛門周囲の括約筋あるいは神経の損傷によるもの:出産のときに会陰切開を受けた場合や、痔核、痔瘻などに対する手術、あるいは事故の際に括約筋や括約筋を動かす神経が傷つけられて失禁をおこすことがあります。
  3. 直腸肛門の病気によるもの:直腸が肛門の外にとびだす直腸脱や直腸の中にできる腫瘍などが原因となることがあります。
  4. 直腸癌の手術後におこるもの:直腸癌で直腸を取り除く手術を受けた後にも便失禁がおこることがあります。
  5. 内科の病気:糖尿病などにより肛門の筋肉が緩んで便失禁をきたすことがあります。

Q)私の便失禁の程度はひどいのでしょうか?

 便失禁の程度は軽い人から、常にパッドをする必要のある程度の人まで、さまざまです。症状の程度にかかわらず、患者さんにとっては、自分の生活の質が低下し、気分が落ち込むこともあります。
 症状の程度に点数をつけて評価することもできます。便やガスが漏れる頻度、パッドをどの程度の頻度でつけているか、便失禁の症状が日常生活にどの程度影響しているか、などを点数化して表します。

Q)便失禁のための検査はあるのでしょうか。

便失禁に対する検査はいろいろあります。

  1. 直腸指診:一番基本的な診察方法です。医師が指を肛門に入れて病気の有無や、括約筋の強さを大まかに判断することができます。
  2. 肛門内圧検査:肛門周囲の括約筋の働きを測定する方法です。一般的には便失禁の方では肛門内圧は正常の値より低くなります。
  3. 直腸造影:直腸の中に少量の造影剤を入れて実際の漏れ具合や、排便の様子を調べることができます。正常の人はなにもせずに座っているときには、肛門は閉じていますが、便失禁の患者さんでは肛門が開いていることがあります。
  4. 超音波検査:肛門の中に超音波検査用のプローブを入れて外からは見えない括約筋の損傷やその程度を知る有効な手段です。

Q)便失禁を治療することはできるのでしょうか?

 手術をしないで治療する保存的治療と手術で治療する外科的治療があります。ほとんどの場合は保存的治療だけである程度の効果が得られますが、中には外科的治療を必要とする患者さんもいます。

保存的治療

  1. 薬:整腸剤で腸の運動を整えたり下剤で直腸を空っぽにしたりする方法があります。ポリカフボフィル・カルシウムというお薬で効果があることがあります。
  2. 理学療法(体操):肛門の周囲の筋肉を締める運動をします。
  3. バイオフィードバック:自分の肛門の締まり具合を器械で確認しながら行うことができます。

外科的治療

  1. 仙骨神経刺激療法:2014年から日本でも保険で認められた比較的新しい治療方法です。埋め込み式の装置を用いて仙骨神経を刺激することにより便のもれを少なくすることができます。効果があるかどうかをあらかじめ確認してから治療を開始します。
  2. その他の手術:部分的に欠損している括約筋を縫い縮めたり、太ももの筋肉の一部を肛門の周囲に巻きつけたりする特殊な方法もあります。

Q)治療をすれば必ず治るのでしょうか?

 治療によってどの程度改善するかどうかは、治療前の便失禁の程度によります。治療前の症状が軽度のものであれば、ほとんど症状がなくなる場合もあります。しかし、治療前の症状が重度の場合は、治療後も完璧に治ることは困難な場合があります。

おわりに

 現在、日本国内には約500万人の便失禁の患者さんがいると言われています。便失禁の診療をしていると、その原因で述べたように、年齢によるものや、女性で出産後に症状が現れる場合が多く、決してめずらしいことではありません。ですから、ご自分で同じような症状に気が付いた場合は、病院を受診する勇気をもってください。

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