一般社団法人 日本大腸肛門病学会

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肛門の病気

痔瘻(じろう,あな痔)ってなに?肛門周囲膿瘍ってなに?

最終更新日: December 01, 2023

所沢肛門病院 栗原 浩幸


はじめに

 肛門にはいろいろな病気がありますが,化膿する病気の代表的なものが肛門周囲膿瘍や痔瘻(じろう,あな痔)です.

1.肛門周囲膿瘍・痔瘻とは?

 肛門周囲膿瘍は,肛門を少し入ったところにある小さな穴から細菌が入って肛門周囲が化膿するものです(図1A, B).膿が自然に出たり、病院で切って膿を出してもらうと,管(くだ)やしこりになって残ります.これが痔瘻です(図2).痔瘻の原因となる穴を原発口,感染を持続させるもととなる部位を原発巣,皮膚開口部を二次口と呼びます(図3,4).皮膚に開口部を持たない痔瘻も少なくありません.
 この原因以外にも切れ痔から生ずるもの,クローン病に合併するもの(図5),結核, HIV感染,膿皮症という病気などが関係することもあります.
 8割くらいは低位筋間痔瘻といわれる肛門周囲の浅いところを通る管ですが,坐骨直腸窩痔瘻という複雑なものもあります.

2.症状

 肛門周囲膿瘍は痛んだり,皮膚が赤く腫れたり,発熱したりします.痔瘻は炎症が治まっていれば痛くなく,しこりを触れたり,分泌物が出たり,かゆみなどが症状です.痔瘻が再び化膿して肛門周囲膿瘍になり痛むこともあります.

3.診断

 浅いところの肛門周囲膿瘍は,目で見て発赤や腫脹を確認し,指で触って膨らみや痛みを知ることによって診断できます.深いところにあると,目で見てもわからないことが多く指で触って診断しますが,慣れない医師はしばしば見逃してしまいます.CT検査や超音波検査で診断がつく場合もあります.肛門が痛くて発熱のある場合には,専門施設の受診をお勧めします.
 痔瘻は目で見て指で触って診断します.肛門周囲にできた二次口を目で見て確認し,瘻管を指で触って診断するのです.複雑な痔瘻についてはその広がりを知るためにMRI検査を行う場合もあります.

 4.予防・治療

 肛門周囲膿瘍は肛門の中の小さな穴から細菌が入って肛門周囲が化膿するものなので,下痢しないようにすることが予防にはなりますが,実際にはなかなか難しいものです.
 肛門周囲膿瘍の治療の原則は切開・排膿です.診断がつけば,基礎疾患,抗血栓薬の使用の有無にかかわらず,速やかに切開・排膿を行います.膿瘍が浅いところにあれば局所麻酔下で切開しますが,深いものは腰椎麻酔下などで行います.皮下に広範囲に広がったものや全身的な合併症をもつ場合,切開だけでは症状の改善が長引くと予想される場合には抗菌薬を投与します.
 痔瘻の自然治癒はまれで,基本的には手術が行われます.痔瘻の管を開いたり,切除したりする手術が行われます.手術によって機能障害をきたす可能性のある複雑痔瘻については,専門施設での治療をお勧めします.

図1A
図1A.肛門周囲膿瘍.7時方向に発赤・腫脹している病変を認める(写真左が12時方向).

図1B
図1B. 図1A症例の切開・排膿.局所麻酔下に切開すると黄色い膿が流出する.

図2
図2.痔瘻の瘻管.手術時に周囲組織から剥離した痔瘻の瘻管.白い索状物で硬く触れる.

図3
図3.低位筋間痔瘻の模式図.痔瘻の原因となる穴を原発口,感染を持続させるもとになる部位を原発巣,皮膚開口部を二次口と呼ぶ.

図4
図4.痔瘻の二次口.2時方向に2つの痔瘻の二次口が見える(写真上が12時方向).

図5
図5.クローン病の痔瘻.多発する二次口や皮垂を認める(写真上が12時方向).

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