一般社団法人 日本大腸肛門病学会

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肛門の病気

クローン病の肛門病変

最終更新日: January 31, 2022

東北労災病院大腸肛門外科、炎症性腸疾患センター 高橋 賢一


クローン病の肛門病変とはどのようなものですか?

クローン病は主に小腸と大腸に潰瘍が出来る原因不明の病気ですが、肛門にも病変が出来やすいことが知られています。およそ9割の方に合併したという報告もあります。クローン病の診断からの経過期間が長いほど頻度は高くなると言われていますが、逆に肛門病変が先に発症して、後から腸管病変が明らかとなりクローン病の診断がつくこともあります。クローン病の肛門病変は、クローン病の腸管病変である潰瘍が肛門部にできたものでありますが、その潰瘍によって二次的に発生した病変や、クローン病とは関係なくたまたま合併した病変もみられます。

クローン病の肛門病変にはどのようなものがありますか?

クローン病の肛門病変は以下の3つに分類することが出来ます。

(1)クローン病の病変が肛門に発生したもの(一次病変:図1)

裂肛、いわゆる切れ痔がこれにあたります。慢性化し深くなったものは肛門潰瘍といわれます。クローン病に特徴的な腸管病変は縦走潰瘍という縦方向に長い潰瘍でありますが、これが肛門に発生したものです。クローン病の裂肛、肛門潰瘍は深く幅広く、周囲の腫れが強い、多発しやすいといった特徴があります。排便時の出血や痛みが主な症状です。

図1

(2)クローン病の一次病変が原因となって二次的に発生したもの(二次病変:図2)

一次病変である裂肛や肛門潰瘍が原因となって続発したもので、代表的なものに肛門周囲膿瘍と痔瘻があります。深い肛門潰瘍から菌が侵入して、周囲に膿がたまって腫れてきたものが肛門周囲膿瘍です。強い痛みや発熱を伴うようになると切開する必要がありますが、切開した後に肛門内の潰瘍病変から皮膚切開部までトンネル状の瘻管がつながった状態になったものが痔瘻です。切開を受けることなく自然と穴が開いて(自潰といいます)出来る場合もあります。痔瘻が出来ると痛みや発熱、排膿といった症状を繰り返すようになります。
また裂肛や肛門潰瘍の周囲の肛門皮膚が腫れて膨らんでくることがあり、皮垂と言われています。クローン病の皮垂はむくみや腫れが強く、多発するという特徴があります。
肛門潰瘍や痔瘻の炎症が長期に持続すると肛門が狭くなることがあり、肛門狭窄と言われます。まれに癌が合併することがあります。また女性では深い痔瘻が膣とつながることがあり、肛門膣瘻あるいは直腸膣瘻と言われます。

図2

(3)クローン病とは関係なく偶然に合併したもの

クローン病ではない人に発生する痔核(いぼ痔)や痔瘻や裂肛などの通常の肛門疾患が、たまたまクローン病の患者さんに発症することもあります。この場合は通常の肛門疾患として治療が行われることになります。ただし通常の肛門疾患、なかでも通常の痔瘻と、クローン病の病変に続発する痔瘻を区別することは時に難しく、慎重な対応を求められることもあります。

クローン病の肛門病変はどのように治療しますか?

(1)内科的治療

クローン病の肛門病変、特に一次病変に対しての治療の原則は内科的治療となります。5-アミノサリチル酸製剤(ペンタサ)やアザチオプリン(イムラン)などの薬物治療や、抗TNFα抗体製剤(レミケード、ヒュミラ)などの生物学的製剤による治療、成分栄養療法(エレンタール)や絶食・中心静脈栄養などの栄養療法が行われます。詳細については「大腸の病気:炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)」をご参照下さい。
裂肛や肛門潰瘍に伴う肛門痛に対しては軟膏や坐薬などの各種痔疾用製剤が用いられます。また痔瘻や肛門周囲膿瘍で腫れの強い場合はメトロニダゾール(フラジール)など抗菌薬の内服治療が行われます。

(2)外科的治療

二次病変に対しては、外科的治療がしばしば行われます。痔瘻では内部に膿がたまって腫れや痛みを繰り返すことが多いので、膿を排出しやすくする目的でシートン留置術を行います。図3のように痔瘻の瘻管に糸やゴムなどを通して両端を結んでリング状にします。ちなみにシートンとは「ひも」という意味です。こうしたシートンを長期に留置しながらクローン病に対する内科的治療を行って、肛門潰瘍や痔瘻の治癒を期待することになります。

図3

これらの治療を行っても肛門部の症状が落ち着かない場合、直腸膣瘻などの複雑な病変を合併している場合、また便失禁や頻回の排便などで日常生活に大きな支障を来している場合には、肛門に便が流れていかないようにするためにストーマ(人工肛門)を造設する場合があります。こうした患者さんではストーマ造設により生活の質が改善することが知られています。
また、ストーマ造設後も肛門痛や排膿などの症状が落ち着かない場合や、癌化の疑われる場合には直腸から肛門部までを切除して永久的なストーマとする直腸切断術が行われます。

(3)新たな治療法~細胞治療薬

2018年、クローン病患者における複雑痔瘻の新たな治療手段として、再生医療等製品であるダルバドストロセルが欧州で製造販売開始となりました。これは健康成人の皮下脂肪組織に由来する間葉系幹細胞を単離・培養して得た脂肪組織由来幹細胞から構成され、手術により痔瘻局所に直接投与することで、免疫調節作用や抗炎症性作用といった薬理作用による治療効果が期待できます。本邦では非活動期または軽症の活動期クローン病患者における複雑痔瘻の治療製品として、2021年9月に製造販売承認となりました(製品名:アロフィセル®注)。今後、クローン病の治療に十分な知識と経験を有する専門施設において、既存治療薬による効果が不十分な患者さんを対象として治療可能となる見込みです。

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