一般社団法人 日本大腸肛門病学会

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肛門の病気

直腸瘤と排便障害~直腸瘤は便秘の原因?結果?~

最終更新日: December 21, 2022

医療法人恵仁会松島病院大腸肛門病センター 松村 奈緒美


はじめに

 直腸瘤(ちょくちょうりゅう)は、膣の後壁が直腸に押されて膨らんでいる状態です。膣側から見ると後ろ側が瘤(こぶ)のように膨らんで見えることから直腸の瘤(こぶ)と書いて直腸瘤(ちょくちょうりゅう)ですが、直腸の内側から見ると前の壁がポケットのように膣の方へ落ち込んでいるような形になっています。

直腸瘤は異常な状態か?

 もともと直腸と膣との間の壁はそれほど厚くないので、直腸の中の圧力がとても高くなると、その壁は膣の方へ強く押されて前に膨らんでしまいます。どんな女性でもいきめば膨らむ可能性があると考えられ、一時的にそこが膨らんだだけでは異常とは言えません。
 「直腸の中の圧力がとても高い状態」とはどんな状態かというと、ほとんどの場合「全身に力が入り、強く力んでいる状態」です。強く力むと肛門が締まってしまうため、直腸内の圧力が過度に高まり、薄く弱い膣との間の壁に特にその力が加わり膨らんでしまうのです。それを何度も、また何年も繰り返すことでだんだんとその壁が引き伸ばされるかたちでもっと薄く弱くなり、膨らみ自体も大きくなっていきます。さらに、薄くなった壁に硬い便がぶつかると、力めば力むほど圧力によって便は膣の方へどんどん押し出されていきます。そうしているうちに、直腸瘤の中に入ってしまった便を肛門から出すことが難しい「便排出障害」となってしまうと、直腸瘤は治療の対象となる「病気」となります。

直腸瘤による便排出障害の治療

 直腸瘤の中に便がはまりこんで出せないときは、膣に指を入れてその瘤を後ろ側の肛門へ向かってぐーっと押すようにすると排便できます。これを用指(手)排便と言います。

 便排出障害のある方の中には、直腸瘤に便がたまっていることを自覚し、用指排便を自然に行っている女性が少なくありません。しかし、それを恥ずかしいこと、異常なことと感じて悩んでいる方も多くいらっしゃいます。用指排便は直腸瘤の対処法の一つであり、決して珍しいことでも異常でもないと理解していただきたいと思います。
 ただし、多くの直腸瘤では、用指排便をしなくてはいけないのは便が硬くて力んでいる時です。便が軟らかければ力まず楽に排便ができることから、直腸瘤の治療の第一は「便の出始めが硬くならないようにする」ことです。肛門や直腸壁に負担をかけない硬さ、具体的には食べごろのバナナ程度が良いようです。
 そして排便の時は「力む」のではなく、肛門の力を抜いて腹圧だけを肛門にかけるように「息む」ことを意識することが大切です。うまく息むと直腸内の圧力は前側ではなく下へ向かって肛門を開く力となり、排便が楽にできます。肛門に力が入って締まってしまうと、直腸の圧力は弱い方、つまり直腸の前の膣との壁に向かっていき、直腸瘤に便がはまりこんで出せなくなってしまうのです。
 この他、腸が動いているタイミングでトイレに行くのも大切です。便意もないのに「用事の前に便を出していきたい」と力むのは、肛門や直腸にとても負担をかけます。便は「出す」ものではなく「出る」ものであって、便意がある時にトイレに行って「自然に出る」のが理想です。
 水分摂取や生活習慣、腸内環境の改善は大切なことですが、排便は「楽に出る」ことと「普段は排便のことを気にせず生活できる」を目指したいものです。そのためには習慣性の少ない非刺激性の便秘治療薬をうまく活用することも考慮しましょう。

気を付けなくてはいけないこと

 直腸瘤は便秘(便排出障害)の原因でもありますが、そもそも便秘で力むから直腸瘤が悪化するとも言えます。直腸瘤は便秘の原因でもあり結果でもあるのです。
 例えば、切れ痔を繰り返して痛みで肛門がきつく締まってしまっていたり、肛門が狭くなったりしている場合、いくらいきんでも肛門がうまく拡がらずに直腸瘤や便排出障害が悪化していることがあります。肛門が狭くなる原因としては他に痔瘻や腫瘍(癌など)も考えられ、細い便しか出ない方や肛門の痛み・出血を伴う方は専門医(肛門科)を受診し、狭くなっている原因の治療を行うことで直腸瘤も改善します。
 また、力んで拡がった直腸の中にその上の腸が落ち込んできて排便を邪魔していたり、骨盤底が動かずいきみがうまく伝わらなかったりなど、便排出障害には直腸瘤だけでなくさまざまな原因が同時に隠れていることがあります。一人で悩まず、きちんと便が出にくい原因についての診断と治療を受けることが直腸瘤の予防でもあり治療でもあるのです。

検査と治療

 直腸瘤は問診と肛門診察でほとんど診断がつきます。便を軟らかくしたり、腸の運動を改善したりすることで症状が改善すれば特にそれ以上の治療は必要ありませんが、便が軟らかいのに用指排便をしなくてはいけない場合はもっと踏み込んだ検査と治療を行います。
 代表的な検査は排便造影です。直腸に、便に近い硬さに調整したバリウムを入れて、それを排便するように出すときの直腸の形や周りの筋肉の動きを観察する検査で、直腸瘤の大きさ自体を測ることもできます。患者さん本人に検査の画像を見ていただくことで、排便が出ない原因を自覚してもらうことも検査の大切な目的です。
 直腸瘤以外に、排便するときに力んで肛門をしめてしまう方には排便訓練を、力むと直腸が拡がって、その中にもっと上にあるはずの腸が落ちてきて肛門をふさいでしまう場合には落ちてくる腸を上に吊り上げる手術が有効な場合もあります。他に明らかな排便障害の原因がなければ、直腸瘤になっている壁を厚く強くするような手術を受けることで用指排便をしなくても良くなることが期待されます。

おわりに

 治療や手術をして直腸瘤が改善しても、その後に便が固くて力むことを繰り返していればせっかく補強した壁もまただんだんと薄く弱くなっていくかもしれません。直腸瘤の治療は結局「良い排便状態を維持すること」に尽きるということです。
 「力む」と「息む」の違いを意識することで、あなたの今日の排便が楽であることを願っています。

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