一般社団法人 日本大腸肛門病学会

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肛門の病気

直腸脱はどんな病気

最終更新日: February 01, 2022

松島病院 大腸肛門病センター排便機能科 黒水 丈次


はじめに

〇高齢者の増加に伴い、便がすっきり出なかったり、便がしたくて少し我慢した時や、気が付かないうちに下着が汚れたりするなどの排便機能障害を経験する人が増加しています。はじめはそれが病気だとは思わず、また、誰に相談してよいかわからず放置しているうちに、症状が起きる回数が増えたり、汚れの程度がひどくなり肛門科を受診する例をしばしば経験します。大腸の病気というとすぐに大腸癌を考えますが、排便機能障害により日常生活が快適に過ごせないことも重大な問題です。排便機能障害をきたす病気の一つとして直腸脱があります。

直腸脱について

〇直腸脱は直腸が重積(腸が腸の中に入り込む状態)し肛門から脱出する完全直腸脱と、直腸が重積した状態で肛門からは出ていない不顕性直腸脱(直腸重積)に分類され、単に直腸脱というときは完全直腸脱を指すのが一般です。その成因あるいは誘因については諸説が報告されていますが、全てを説明しうる説はありません。先天的因子に後天的誘因が加わり発症するものと考えられており、引き金となるのは強く長いいきみです。排便時間が長かったり、便を出そうとして強く力むことです。直腸脱は一般に高齢者で特に女性に多いのが特徴ですが、若年者でも発症しないわけではありません。排便に数十分かかったり、必死で力むような特殊な場合に多く発症します。

図1

図2

〇症状としては直腸の脱出、便漏れ、排便障害が主となりますが、脱出による下腹部の違和感や排尿困難なども見られます。初期は排便するのに強くいきんだ時に直腸が肛門から脱出し、いきむのをやめると自然に戻ります。肛門が脱出する脱肛と直腸脱は違いますが、何かが肛門から出ているという感覚は同じです。病状がさらに進むと歩行時や入浴後などに脱出し、手を使わないと自然に戻らなくなります。また便が出始めても連続せず残便感がおきたり、身体活動が制限されたりして気分不快をきたします。
脱出は大きい場合は10cm以上にもなり、粘膜面は同心円状の皴を呈します。脱出してむくみが強くなると手で戻すことが困難になり、専門医でも戻すのに腰椎麻酔を必要とすることもあります。直腸が脱出すれば一目瞭然ですが、不顕性直腸脱の場合は検査をしないと診断できません。検査も排便造影検査と言って、造影剤を混ぜた疑似便を直腸内に注入し、排便の状態をレントゲンでビデオ撮影する特殊な検査です。大きな病院だからできるわけではなく、専門施設に限られているのが現状です。ただ初期症状として、排便が何回にも小分けして出たり、気付かないうちに下着が汚れたり、下腹部に違和感を感じたりなどがあります。これらの症状が気になるときは専門医を受診してください。

〇治療は直腸の脱出をなくし、便漏れや排便障害を改善することが最終目標となります。脱出の治療法としては手術が適応となりますが、手術方法は成因や誘因と同様で50種類以上にものぼり、数多く報告されている手術成績もまちまちです。
術式は一般に会陰部から操作する会陰式(経肛門式も含む)と腹部を開腹する腹式に大別されます。会陰式の手術は腰椎麻酔(場合によっては局所麻酔でも可)で施行できるため低侵襲で比較的安全ですが、再発率が高いのが欠点です。それに比べ腹式は再発率が低く成績は良いのですが、全身麻酔で行うため高侵襲となります。最近では腹腔鏡による手術が主流となり小さな傷で低侵襲となりましたし、入院期間も10日程度で済みます。腹式、会陰式のどちらを選択するかは、(1)脱出の程度、(2)解剖学的変化、(3)全身状態を考慮して決定されます。

おわりに

〇直腸脱は高齢者、特に女性に多い病気で、社会の高齢化にともない増加傾向にあります。直腸が脱出すると日常の活動が制限され外出するのも億劫になり、脱出が頻回になると肛門のしまりが悪くなり、便漏れをきたすことも多くなります。その結果QOLが低下します。
直腸脱に対する根治手術をすることで直腸の脱出がなくなると体の動きが楽になり、また、肛門のしまりの改善(随意収縮力が良くなること)は日常生活を快適にします。さらに排便が良くなるとストレスが解消し、QOLは良くなります。

〇女性では肛門が出ていると思っていて、実は子宮脱(子宮が膣から脱出する病気)や膀胱瘤、あるいはこれらを合併していることがあります(POP:骨盤臓器脱)。いずれにしても正確な診断と適切な治療法の選択により改善は可能ですが、何らかの症状に気付いたり、症状が気になったら早めに専門医による診察と検査を受けることが重要です。治療を受けるにあたっては、直腸脱の病態と治療方法について十分に説明を受け、認識することが必要です。
QOL:Quality of Life(生活の質、快適性)

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